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愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に〜  作者: 暁 龍弥
少年編

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第75話

白鴉亭から少し離れた通りで、

七人は歩みを緩めた。


さっきまで張りつめていた空気が、

夜風に少しずつ溶けていく。


「……宣言、ちゃんと刺さったわね」


セレナが、どこか楽しそうに言う。


「宰相の顔、

 久しぶりに“予定外”って感じだった」


「帝国は、

 ああいうのが一番苦手なのよ」


ルクレツィアは肩をすくめた。


「管理できない存在。

 でも、排除するには惜しい。

 政治家にとって、最悪のカードね」


エリシアが頷く。


「だから当面は、

 “触れずに観測”するはず。

 少なくとも、表では」


マリーヌが、少し不安そうに言う。


「……裏、ではどうなるんでしょう」


「裏は――」


僕が答えかけた、そのとき。


リズが、静かに立ち止まった。


「……待って」


全員が、反射的に足を止める。


「気配がある。

 でも……敵意じゃない」


闇の中、

路地の奥から足音が近づいてきた。


「すみません」


穏やかな声。


「こんな時間に、

 引き止めてしまって」


現れたのは、

フードを深く被った人物。


背は高くない。

声から察するに、若い女性。


「……誰?」


セレナが一歩前に出る。


「名乗るほどの者ではありません」


そう言いながら、

彼女はフードを外した。


月明かりに照らされる、

淡い金髪と、

どこか眠たげな碧眼。


そして――

修道服でも、

貴族服でもない、

簡素な旅装。


「私は、

 ただの“伝え役”です」


その視線が、

僕に向けられる。


「アルス・アドマイヤ。

 あなたに、

 どうしても伝えなければならないことがある」


「……教会?」


「いいえ」


即答だった。


「帝国でもありません。

 魔導国家でもない」


一瞬の沈黙。


「じゃあ、

 どこから来たのよ」

セレナが問い詰める。


彼女は、

少しだけ困ったように微笑んだ。


「“世界の外側”――

 そう言えば、

 あなたなら理解できるでしょうか」


胸の奥で、

フェイトリードが、

ごくわずかに反応した。


(……来たか)


「続けて」


僕は、

静かに促す。


「あなたたちは、

 裁きを拒否した。

 世界の正規ルートから外れた」


彼女は、

まるで事実を読み上げるように言う。


「それは、

 “観測者”にとっても、

 想定外でした」


「観測者……?」


エリシアが、

わずかに表情を変える。


「迷宮の深層で、

 “裁きの人格”が語っていた存在ね」


彼女は、

小さく頷いた。


「はい。

 私たちは、

 世界が自壊しないよう、

 流れを“観測”してきました」


ルクレツィアが、

一歩踏み出す。


「介入は?」


「原則、しません」


彼女は、

はっきりと言った。


「ですが……

 あなたたちは、

 “観測だけでは足りない存在”になってしまった」


マリーヌが、

思わず僕を見る。


「それって……

 危ない、ってことですか……?」


「危険です」


否定はなかった。


「けれど同時に――

 希望でもある」


彼女は、

そっと胸に手を当てる。


「だから、

 伝えに来ました」


「何を?」


彼女は、

一瞬だけ言葉を選び、

そして告げた。


「この先、

 あなたたちは必ず、

 “世界が壊れる未来”を視ます」


胸が、きゅっと締まる。


「それは、

 七人の誰かが死ぬ未来ではない。


 世界そのものが、

 今の形を保てなくなる未来です」


セレナが、

思わず声を荒げる。


「ちょっと待って!

 そんなの、

 脅しにしか聞こえないんだけど!」


「脅しではありません」


彼女は、

静かに首を振る。


「警告です。

 そして……選択の提示」


リズが、

低い声で問う。


「選択?」


「はい」


彼女は、

まっすぐ僕を見つめる。


「その未来を、

 “止める”か。


 あるいは――

 “受け入れて、作り直す”か」


夜風が、

強く吹いた。


魔導灯の光が揺れ、

影が踊る。


(……世界を、作り直す)


それは、

あまりにも重い言葉。


「なぜ、

 俺たちに?」


僕がそう問うと、

彼女は少しだけ笑った。


「世界に嫌われた存在は、

 世界を壊す権利も、

 作り直す資格も、

 同時に得るからです」


沈黙。


誰も、

すぐには言葉を返せない。


「……名乗らない理由は?」


エリシアが聞く。


彼女は、

少しだけ困ったように目を伏せた。


「名を名乗ると、

 “物語の登場人物”になってしまうから」


顔を上げ、

最後にこう言った。


「どうか、覚えていてください。


 次に、

 “世界が壊れる未来”を視たとき――

 それは、

 あなたたちが間違えた証ではありません」


そして一歩、下がる。


「それは、

 “選び続けた結果”です」


次の瞬間、

彼女の姿は、

風に溶けるように消えた。


◆◆◆


しばらく、

誰も動かなかった。


最初に口を開いたのは、

セレナだった。


「……なに、それ。

 情報量、多すぎなんだけど」


「同感ね」

エリシアが息を吐く。

「でも、

 嘘は言ってない」


ルクレツィアが、

夜空を見上げる。


「世界を作り直す、か……

 ずいぶん大きな話になったわね」


マリーヌが、

小さく手を握りしめる。


「……でも、

 アルス様が選ぶなら……」


言葉の続きを、

言わなくても伝わった。


リズが、

そっと僕の隣に立つ。


「重くなったわね。

 背負うものが」


「……ああ」


僕は、

ゆっくりと息を吸う。


「でも、

 背負うって決めた」


七人で。

最初から。


「世界が壊れる未来を視ても、

 そこで立ち止まらない」


拳を、

ぎゅっと握る。


「止めるか、

 作り直すかは――

 そのとき決める」


セレナが、

小さく笑った。


「相変わらず、

 大雑把な覚悟ね」


「でも――」


彼女は、

僕の背中を軽く叩く。


「嫌いじゃない」


夜の帝都を背に、

七人は再び歩き出す。


世界は、

確かに動き始めていた。


しかも――

想像以上に、大きく。


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