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愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に〜  作者: 暁 龍弥
少年編

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第73話

翌朝、帝都はいつも通りに目を覚ました。


鐘の音。

行き交う人々。

店先で交わされる何気ない挨拶。


昨夜の緊張が嘘のように、

街は穏やかで、平凡で――

だからこそ、不気味だった。


「……視線、多いわね」


セレナが小声で言う。


宿屋の食堂。

朝食を取っているだけなのに、

周囲の客の動きが、どこか不自然だ。


「直接見てこない分、余計に質が悪い」

エリシアが、カップを置きながら答える。


「探り。

 それも、“こちらが気づくかどうか”を見てるタイプ」


マリーヌは少し身を縮める。


「え、えっと……

 私、何か変なことしてますか……?」


「してないしてない」

セレナが即座に否定する。


「むしろ普通にしてるのが、

 いま一番目立つくらい」


ルクレツィアは、ゆっくりパンを噛みながら言った。


「帝国の犬、教会の鳩、

 それから……

 どこにも属してない連中」


「魔導国家ね」

エリシアが頷く。


「ユリア・アークレイン。

 本人はまだ姿を見せてないけど、

 魔力の癖が、いくつか混ざってる」


(来てるな)


僕は、フォークを置いた。


「今日は、二手に分かれよう」


全員が顔を上げる。


「エリシアとルクレツィアは、

 貴族街と官庁街を回って情報収集」


「了解」

ルクレツィアが即答する。


「私は市井側を見るわ」

エリシアも頷く。


「セレナとマリーヌは、

 商業区で普通に過ごしてほしい」


「デート?」

セレナがにやりと笑う。


「目立ちすぎない程度に、な」


マリーヌが慌てて頷く。


「は、はい……

 がんばって普通にします……!」


「俺とリズは――」


リズが、静かに続きを待つ。


「教会区画を見てくる。

 表と裏、両方だ」


リズは小さく微笑んだ。


「了解。

 懐かしい空気ね、あそこは」


◆◆◆


教会区画は、

朝から静かだった。


白い石畳。

整えられた庭園。

祈りの声。


「……変わってないようで、

 確実に変わってるわ」


リズが言う。


「以前より、

 “信仰を疑う気配”が増えてる」


「大聖女の影響?」


「ええ。

 彼女は、強い。

 でも同時に……

 “人”でもある」


僕たちは、

表の大通りから外れ、

裏手の回廊へ入った。


そこで――

一人の修道服の女性とすれ違う。


すれ違いざま、

彼女は小さく呟いた。


「……選んだのですね」


足が、止まる。


振り返ったときには、

もう誰もいなかった。


リズが、目を細める。


「……教会は、

 すでに知っている」


「敵意は?」


「まだ。

 でも……

 “試す気”は、確実にあるわ」


◆◆◆


一方、商業区。


人の波の中、

セレナとマリーヌは

露店を冷やかしていた。


「ほら、これ可愛いじゃない」

セレナが、

小さなアクセサリーを手に取る。


「え、えっと……

 た、確かに……」


マリーヌは、

視線を泳がせながら頷く。


そのとき。


「失礼」


二人の前に、

涼やかな声が落ちた。


振り向くと、

淡い蒼髪の少女が立っていた。


年は同じくらい。

だが、纏う空気が違う。


理知的で、

どこか距離がある。


「あなたたち、

 迷宮帰りでしょう?」


セレナが即座に笑顔を作る。


「さあ?

 ただの買い物中の女の子二人だけど?」


少女は、気にした様子もなく続けた。


「魔力の残滓が、

 まだ完全に消えていない。

 深層由来のものね」


マリーヌが、

思わず息を呑む。


「自己紹介が遅れました」


少女は、軽く頭を下げる。


「ユリア・アークレイン。

 魔導国家所属――

 いまは、個人として来ています」


(来たわね)

セレナは内心で舌打ちした。


「で?

 個人さんは、

 私たちに何の用?」


ユリアは、

少しだけ考える仕草をしてから言った。


「興味です。

 そして――

 “警告”」


「警告?」


「帝国と教会、

 どちらも“あなたたちを定義しよう”としています」


マリーヌが、不安げに聞く。


「……定義、ですか……?」


「英雄か、災厄か、

 管理対象か、排除対象か」


ユリアは、

真っ直ぐ二人を見る。


「その前に、

 私自身の目で確かめたかった」


セレナが肩をすくめる。


「へぇ。

 観察対象にされる趣味はないんだけど?」


「承知しています」


ユリアは、

ほんのわずかに口角を上げた。


「だから、

 私は“観測者”をやめるつもりです」


◆◆◆


官庁街。


エリシアとルクレツィアは、

情報屋との短いやり取りを終え、

路地に入っていた。


「宰相、相当焦ってるわね」

エリシアが言う。


「ええ。

 でも、敵意よりも――

 不安のほうが強い」


ルクレツィアが答える。


「“制御できない存在”は、

 為政者にとって一番怖い」


エリシアは、

一枚のメモを見た。


「白鴉亭。

 予定より、

 警備が増えてる」


「歓迎の仕方が、

 ちょっと過剰ね」


二人は、視線を交わす。


「……覚悟、決めないと」


「ええ」


◆◆◆


夕方。


再び宿に、

七人が集まった。


情報は、揃った。


帝国は対話を装い、

教会は静かに試し、

魔導国家は、距離を測っている。


そして――

それぞれが、

“七人をどう扱うか”を

決めかねている。


「状況、最悪じゃない?」

セレナが言う。


「最悪ではないわ」

エリシアが訂正する。


「“均衡”が保たれてる。

 いまは」


マリーヌが、

そっと口を開く。


「……ユリアさん、

 敵じゃない気がしました……」


セレナが頷く。


「うん。

 少なくとも、

 嘘はついてない」


リズが、静かに言った。


「問題は――

 白鴉亭ね」


全員の視線が、

僕に集まる。


「行く」


短く、確かに言う。


「ただし、

 交渉じゃない」


「じゃあ何?」

セレナが聞く。


「宣言だ」


僕は、

一人一人の顔を見る。


「俺たちは、

 誰の物語にもならない」


その言葉に、

全員が、強く頷いた。


帝都の夜が、

再び訪れる。


三日後。

白鴉亭。


そこで、

世界に対して

“七人の立場”が示される。

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