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愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に〜  作者: 暁 龍弥
少年編

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第71話

帝都の外縁にある小さな宿屋は、

昼下がりの時間帯ということもあって静かだった。


木の床は少し軋み、

窓から入る風は、迷宮のそれよりずっと生ぬるい。


「……生きてるって感じするわね」


セレナが椅子に深く腰掛け、天井を見上げた。


「さっきまで世界の外側にいたのに、

 今は普通に宿屋で座ってるとか、

 切り替えが追いつかないんだけど」


「それが現実よ」

エリシアはカップを手に取り、湯気の立ち方を観察している。


「世界は、私たちが何を経験したかなんて気にしない。

 だからこそ、戻った瞬間から“次の問題”が始まる」


マリーヌはパンを両手で持ちながら、少し安心した表情を浮かべていた。


「でも……

 こうして皆さんと一緒にご飯を食べられるの、

 すごく……ほっとします……」


「それは同感ね」


ルクレツィアは外套を椅子に掛けながら、

窓の外――帝都の方向を一瞥した。


「迷宮の外に出た以上、

 あの街はもう“舞台”になる。

 役者は、揃ってるわ」


リズは静かに頷く。


「帝国、教会、魔導国家。

 それに……

 世界そのものが、私たちを見失った代償として、

 より強く探し始めるでしょう」


空気が、わずかに張りつめる。


僕は、テーブルに手を置いた。


「だから、ゆっくりでもいい。

 でも、何もしない時間は作らない」


全員が、自然とこちらを見る。


「まずは三つだ」


指を一本ずつ立てる。


「一つ。

 帝都で“誰が、どこまで俺たちの帰還を把握しているか”を探る」


エリシアが即座に補足する。


「宰相はほぼ確実。

 問題は、教会と魔導国家ね」


「二つ目は?」

セレナが聞く。


「俺たち自身の立ち位置を決める。

 冒険者として動くのか、

 貴族として表に出るのか、

 それとも――完全に裏から行くのか」


ルクレツィアが口角を上げた。


「選択肢が多いのは、嫌いじゃないわ」


「三つ目」


少し、間を置く。


「……七人で“どう在るか”を、もう一度確認する」


マリーヌが、きょとんとする。


「もう、確認してると思ってました……」


「迷宮の中ではな」


僕は続けた。


「でも、外の世界では違う。

 責任も、誘惑も、役割も増える。

 誰かが無理をして、

 誰かが黙って耐える形にはしたくない」


セレナが、肘をついて笑った。


「なにそれ。

 定期ミーティングでもする気?」


「必要なら、する」


即答すると、

一瞬の沈黙のあと、笑いが起きた。


「真面目すぎるのよ、あんた」

「でも嫌いじゃない」

「むしろ安心するわ」


そんな言葉が、ぽつぽつと落ちる。


(……よし)


この空気なら、まだ大丈夫だ。


◆◆◆


その頃、帝都中心塔。


高層階の執務室で、

宰相は報告書を読み終え、静かに息を吐いた。


「……迷宮深層からの帰還、確認。

 しかも、正規ルートではない」


机の前に立つのは、例の蒼髪の少女――ユリア・アークレイン。


「観測結果とも一致します。

 迷宮の深層反応が“消失”しました」


「消失、か」


宰相は目を細める。


「攻略された、ではない。

 “外された”という表現が正しいな」


ユリアは少しだけ口角を上げた。


「ええ。

 とても興味深い現象です。

 世界の想定から外れた存在――」


「アルス・アドマイヤ」


名前を口にした瞬間、

部屋の空気がわずかに重くなる。


「彼に接触するか?」

宰相が問う。


ユリアは、迷いなく答えた。


「はい。

 ただし、敵対ではなく――

 “対話”として」


「理由は?」


「壊すには惜しい。

 それに……

 彼は、観測する側ではなく、

 “選ぶ側”に立ち始めています」


宰相は小さく笑った。


「若いな」


「若いからこそ、危険です」


ユリアの瞳が、かすかに揺れた。


「でも……

 だからこそ、目を離せない」


◆◆◆


一方、教会。


大聖女は、静かな礼拝堂で祈りを終え、ゆっくりと立ち上がった。


「……やはり、戻ったわね」


側に控える神官が問う。


「導きを与えますか?」


「いいえ」


大聖女は首を振る。


「もう、導く段階ではないわ。

 彼らは――

 選ぶ覚悟を持ってしまった」


杖を手に取り、

大聖女は穏やかに微笑む。


「だからこそ、

 試されるのは“信仰”の側」


神官が息を呑む。


「それは……」


「教会が、

 彼らを許せるかどうか、よ」


◆◆◆


宿屋に戻る。


夕暮れが近づき、

窓の外が茜色に染まり始めていた。


「ねえ、アルス」


セレナが、少しだけ真剣な声で言う。


「これからさ……

 誰かがあんたを“利用しよう”としたら、どうする?」


その問いに、

全員の視線が集まる。


僕は、少し考えてから答えた。


「話は聞く。

 でも、選ぶのは俺たちだ」


「一人で決めない?」

マリーヌが不安げに聞く。


「決めない」


即答した。


「七人で決める。

 それが、俺たちのやり方だろ?」


リズが、静かに微笑む。


「ええ。

 もう、誰かの物語じゃない」


ルクレツィアが立ち上がり、

窓の外を見て言った。


「帝都は、もうすぐ騒がしくなるわ。

 でも……」


振り返り、仲間を見る。


「嵐の中でも、

 七人で歩けるなら、悪くない」


エリシアが頷く。


「情報は私が集める。

 セレナは動き。

 マリーヌは支え。

 リズは……」


「見守るわ」

リズが答える。


全員の視線が、僕に戻る。


役割は、自然に決まっていた。


(……ああ)


青年期は、

もう迷宮の中だけの話じゃない。


世界が動く。

陰謀が絡む。

誘惑も、選択も、増えていく。


それでも――

七人で進む。


その選択だけは、

もう揺るがない。


帝都の夜が、

静かに始まろうとしていた。

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