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愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に〜  作者: 暁 龍弥
少年編

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第70話

音が、戻ってきた。


風が吹く音。

自分たちの呼吸。

剣が鞘に収まる、金属のかすかな鳴り。


灰色だった世界は、

いつの間にか“何色でもない白”に変わっていた。


床は相変わらず終わりが見えない。

けれど、さっきまで感じていた重圧――

世界そのものに押し潰されるような感覚は、確実に消えている。


「……終わった、のよね」


セレナが、少し力の抜けた声で言った。


「世界に説教されて、

 世界に嫌われて、

 最後に世界ぶち壊しかけた気分だけど」


「概ね合ってるわね」

エリシアが眼鏡を直しながら答える。


「“裁きの人格”は、

 世界の自己防衛機構みたいなものだった。

 それを拒否したってことは……」


「私たち、

 もう“正規ルート”じゃないってことですよね……?」


マリーヌの問いに、

誰もすぐには答えられなかった。


正規じゃない。

用意されていない。

守られていない。


それは、

怖い言葉でもあり――

自由の証でもある。


「正規じゃなくていいわ」


ルクレツィアが、はっきりと言った。


「最初から、

 誰かに敷かれた道を歩くつもりなんてなかったもの」


リズが静かに頷く。


「世界に愛されなくても、

 私たちが互いを愛して選んだ未来なら、それでいい」


その言葉に、

胸の奥が少しだけ熱くなった。


(……ああ、そうだ)


誰かに許される必要なんて、なかった。


◆◆◆


ふと、足元の白が揺らいだ。


水面のように波紋が広がり、

そこから“道”が浮かび上がってくる。


今までの階段とも、門とも違う。

ただ、緩やかに続く一本の道。


「出口……?」

マリーヌが首を傾げる。


エリシアが魔力を探る。


「迷宮の構造じゃない。

 でも……外に繋がってる。

 しかも、かなり深層から直接」


「つまり?」

セレナが聞く。


「ショートカット。

 世界の想定外になった代わりに、

 “迷宮の都合”からも外された」


ルクレツィアが口笛を吹く。


「ご褒美なのか、

 面倒事の前払いなのか、判断に困るわね」


僕は、

道の先をじっと見つめた。


(……外に、繋がっている)


でも同時に、

はっきりと感じる。


この道を出た瞬間、

世界は――

僕たちを“ただの若者”としては扱わない。


「どうする?」


セレナが、僕を見る。


「出た瞬間、

 帝国も教会も魔導国家も、

 まとめて敵に回す可能性あるわよ?」


「……うん」


それは、

わかっている。


でも――

ここに留まる理由も、もうなかった。


「行こう」


短く、そう答えた。


「迷宮の中で決めたことは、

 外に出ても変えない」


マリーヌが、

小さく拳を握る。


「私……

 ちゃんとついて行けますか……?」


僕は、

彼女の目をまっすぐ見た。


「もう“ついてくる”段階じゃない。

 隣に立ってる」


マリーヌの瞳が、

一瞬揺れて――

それから、力強く頷いた。


「……はい!」


リズが微笑む。


「なら、私は最後尾ね。

 いつでも戻れるように」


「戻る場所、ある?」

セレナが軽く言う。


リズは、少しだけ切なそうに笑った。


「レムリアがあるでしょう。

 名前を刻んだ場所は、

 簡単には消えないわ」


◆◆◆


七人で、道を歩き始める。


白い世界の中、

足音だけが響く。


歩きながら、

エリシアがぽつりと言った。


「……ねえアルス」


「どうした?」


「フェイトリード。

 さっきから、

 前より“静か”じゃない?」


その指摘に、

僕は自分の内側に意識を向けた。


確かに。

未来は見える。

でも以前のように、

勝手に枝が溢れてくる感覚がない。


「……たぶん」


少し考えてから答える。


「世界に守られてない分、

 未来も“確定”しにくくなったんだと思う」


「それって……」


「見える未来は減った。

 でも、その分――

 “作れる余地”が増えた」


エリシアは、

ゆっくりと息を吐いた。


「……厄介ね。

 でも、嫌いじゃないわ」


ルクレツィアが笑う。


「王としては最悪、

 個人としては最高の条件ね」


セレナが肩をすくめる。


「要するに、

 今まで以上に失敗も成功も全部自分たち次第ってこと」


「そう」


「燃えるじゃない」


セレナは、

不敵に笑った。


◆◆◆


道の先に、

光が見え始めた。


迷宮の光とは違う。

もっと、現実的な――

太陽の色。


マリーヌが、思わず声を漏らす。


「あ……外……?」


一歩、また一歩。


光が強くなり、

視界が白く染まる。


その瞬間――

胸の奥で、

何かが“切り替わった”感覚がした。


フェイトリードが、

静かに、確かに脈打つ。


(……ここからは、青年期だ)


子供でも、

迷宮の探索者でもない。


世界と向き合う、

一人の“青年”としての時間。


光を抜けた先で、

冷たい風が頬を打った。


◆◆◆


気づけば、

僕たちは高台に立っていた。


眼下に広がるのは、

見慣れた――けれど、

もう他人事ではいられない世界。


街。

道。

人々の営み。


遠くには、

帝都の塔が見える。


「……戻ってきたわね」


セレナが、

少しだけ感慨深そうに言った。


エリシアは即座に周囲を確認する。


「人目はない。

 この出口、

 完全に“非公開ルート”ね」


「便利すぎない?」

ルクレツィアが苦笑する。


リズが、

空を見上げて呟いた。


「世界は、

 私たちを見失ったわ」


その言葉に、

背筋が少し冷えた。


見失われた。

それは、自由であると同時に――

“監視が解けた”ということでもある。


「つまり」


セレナが拳を鳴らす。


「これからは、

 世界が何をしてくるかわからないし、

 あたしたちも何をしてもいいってことね」


僕は、

皆の顔を見回した。


不安もある。

迷いもある。


でも――

恐怖だけじゃない。


確かに、

前を向いている。


「まずは、帝都だ」


そう告げる。


「迷宮から戻ったことを、

 誰が、どこまで把握しているか確認する」


エリシアが頷く。


「情報戦、ね。

 ここからは剣だけじゃ済まない」


ルクレツィアが笑う。


「望むところよ。

 政治も戦争も、

 全部ひっくるめて“七人の未来”でしょ」


マリーヌが、

少し緊張しながらも言った。


「……あの、

 その前に……」


「うん?」


「ちゃんと、

 ご飯……食べたいです……」


一瞬、

全員が固まって――


次の瞬間、

笑いが弾けた。


「賛成!」

「それは重要ね」

「迷宮食はもうしばらく遠慮したいわ」


僕も、思わず笑った。


(ああ……)


この感覚を、

守り続けたい。


世界がどう動こうと。

誰が敵になろうと。


七人で笑って、

七人で腹を空かせて、

七人で悩んで。


そうやって進む未来を――

選び続ける。


青年期は、

静かに、しかし確実に始まった。


その背後で――

帝都の中心塔に、

新たな動きが起きていることを、

まだ誰も知らなかった。

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