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愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に〜  作者: 暁 龍弥
少年編

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第62話

階段を降りると、次の階層は異様な静けさだった。


巨大迷宮であるはずなのに、

風の音ひとつ、魔力の揺らぎひとつ感じない。


ただ、ひたすら“静か”。


セレナが腕を組んだまま周囲を睨む。


「……逆に怖いわね。

 敵がいないほうが絶対ヤバい」


ルクレツィアが苦笑する。


「まあ、迷宮の“休み時間”なんて存在しないでしょうし」


マリーヌは耳をぴくぴくさせながら言う。


「匂いは……匂いはあるんですけど……

 なんか、“生きてない生き物”みたいな匂いで……」


エリシアが視線を細める。


「生あるものじゃないけど、

 死とも違う……虚無のような気配。

 この階層、なにかを“隠してる”」


リズも歩きながら囁く。


「空間の魔力の流れが途中で切れている。

 “封印”がこの階層の中心のはず」


そして――

ある一点に近づくにつれ、感覚が増した。


《記憶》

《感情》

《感応》


どれでもあり、どれでもない言葉が

胸の奥にひっかかった。


僕は無意識に歩みを遅くした。


(……ここを知っている気がする)


前世ノアの記憶なのか、

この世界の生まれ変わりの影響なのか、

判断がつかない。


セレナが僕の歩みの変化に気付き、声をかける。


「ちょっとアルス。

 また無理に抱え込もうとしてない?」


僕は小さく笑って答えた。


「違う。今回は……“思い出してるだけ”」


ルクレツィアが続ける。


「なら、その記憶をちゃんと共有しなさい。

 ここで黙り込まれたら、本気で困る」


マリーヌも不安そうに手を握る。


「一人にしないって、言ったじゃないですか……?」


エリシアは分析の視点から言う。


「アルスの記憶がこの階層と関係あるなら、

 なおさら“言語化”して共有して。

 隠された意図の把握につながる」


リズは柔らかな声で締めくくる。


「わかりやすく話してくれなくてもいい。

 感じたままの言葉で十分」


僕は息を吸った。


そして――口にする。


「ここ……“扉があった場所”みたいなんだ」


全員が硬直した。


「扉?」

「何の扉?」

「どこへ?」


問いが重なる。


僕はゆっくりと言葉を続けた。


「前世の記憶の話なんだけど……

 俺が封じられる前、最後に立っていた場所が――

 “こういう空間”だった気がする」


静寂。


感情でも、恐怖でもなく、

全員が息を詰めて真剣に聞いていた。


「扉の先に――

 何か、取り返しのつかないモノがあった」


セレナが低く呟く。


「……アルスが“助けようとして助けられなかった誰か”?」


胸の奥に、鋭い痛みが走った。


僕は答えられなかった。

答える前に――空間が揺れた。


◆◆◆


階層の中心に、

巨大な石碑が現れる。


そこには七つの溝が刻まれていた。


マリーヌが溝の形を指差しながら言う。


「アルス様……

 これ、さっきの“胸に入った光の欠片”と同じ形です」


エリシアが解析する。


「七つの光を――この溝にはめれば封印が解ける」


ルクレツィアは構えたまま言う。


「でも、これを“迷宮が求めてる封印解除”と考えるのは早計よ。

 罠の可能性も十分ある」


リズは静かに石碑の前に立ち、呟いた。


「……アルスの“記憶”とリンクしている気配がする。

 たぶん、この封印を解くと――

 アルスの記憶が大きく動く」


全員が、僕の方を見る。


セレナの瞳は強い意志で燃えている。


「記憶が戻ってもいい。

 でも、それで“今のアルス”が壊れるなら、

 私は解除させない」


ルクレツィアも真剣に続ける。


「記憶も力も欲しいけど、

 それであんたがいなくなるなら意味がない」


マリーヌは涙目で言う。


「私は……名前を呼んでくれるアルス様がいいんです……」


エリシアが震えた声で付け足す。


「ノアを否定するつもりはない。

 でも“今のあなた”が消えるのは嫌」


リズは祈るような表情で言った。


「どの未来でもいい。

 でも、アルス自身の意志がそこにあるなら――

 私は支える」


涙が、喉の奥まで込み上げた。


怒りでも悲しみでもない。


こんなにも大切に想われて――

僕の存在が肯定されているということが、

ただただ胸に刺さった。


僕は石碑に触れずに言う。


「俺は、記憶を全部取り戻しても――

 “今の俺”を捨てない。

 ノアだった過去があっても、

 今のアルス・アドマイヤで歩く」


セレナが小さく息を吐いて笑う。


「……そう言われると、信じたくなるわね」


そのとき――空間に声が響いた。


『なら――証明してみせてよ、アルス』


仮面の人物の声。

だが、前よりも“人の感情”が混ざっている。


『扉を開けても、今を捨てない?

 過去を取り戻しても、七人を選ぶ?

 失ったものに触れても、いまの愛を壊さない?


 そんな未来、どこにも存在しない』


仮面の人物が、笑う。


『なのに選ぶの?

 未来を“作る”なんて――

 そんな傲慢が許されると思ってるの?』


僕は一歩、石碑へ進む。


「許されなくていい。

 許される未来より、俺が正しいと思う未来を選ぶ」


仮面の声が震えた。


『――そんなの……ずるいだろ……』


一瞬、その声は“泣いているように”聞こえた。


だが次の瞬間、空気が変わる。


『なら見せてやる。

 “七人では進めない階層”を』


石碑が光り、

階層が形を変える。


七人の足元がバラバラの方向に暗転し――


◆◆◆


視界が裂けた。


セレナ

ルクレツィア

マリーヌ

エリシア

リズ

そして僕


七人は――完全に分断された。


触れられない。

声も聞こえない。

互いの気配すら感じない。


迷宮が告げる。


《次の試練は――孤独》


そして、床が崩れ落ちる。


それぞれが“ひとりぼっち”で闇に落ちていった。

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