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愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に〜  作者: 暁 龍弥
少年編

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第61話

扉の向こうは、静かだった。


さっきまでの喧騒と鉄の匂いが嘘のように、

そこにはただ、淡い青白い光だけが満ちていた。


足を踏み入れると、

小さな音がした。


――カチリ。


「……今の音、何?」


セレナが眉をひそめる。


次の瞬間、世界が“裏返った”。


視界がぐにゃりと歪み、

床が天井になり、天井が床になったような感覚。


だけど――落ちない。


「うひゃぁっ!? お、おちてない!? なんで!?」


マリーヌが耳と尻尾を総立ちにして叫ぶ。


エリシアがすぐに理解したように呟いた。


「重力操作……?

 いいえ、それだけじゃない。

 “感覚そのもの”が書き換えられてる」


ルクレツィアは剣を構えたまま、周囲を見渡す。


「見た目ほど危険には感じないけど……

 歩き方を間違えたら、一気に崩れそうね」


リズは静かに目を閉じ、魔力の流れを感じ取る。


「……この階層、嫌な“匂い”がするわ。

 さっきまでの“戦場”とは質が違う」


僕は――

自分の身体に違和感を覚えた。


(……ん?)


手を握る。

開く。


足を動かす。


すべて、微妙に“自分じゃない”感覚が混ざっている。


◆◆◆


階層全体は、巨大な円柱ホールのようになっていた。


足元――

いや、“現在の感覚上の床”には、

いくつもの円盤状の足場が浮かんでいる。


それぞれが距離を保って浮遊し、

ゆっくりと回転している。


円盤は大小さまざま。

中には、縁が崩れかけているものもある。


そして、ホールの中心には

宙に浮かんだ“光の核”のようなものがあった。


エリシアが即座に解析する。


「たぶん、あの光が“階層の核”ね。

 あれを破壊するか、操作するかで次に進める」


セレナが腕を組む。


「つまり、あそこにたどり着けばいい――

 けど、素直に行かせるわけないわよね」


その言葉に呼応するように、

円盤のいくつかが“ギギギ……”と音を立てて位置を変えた。


ルクレツィアが目を細める。


「動く足場……ね。

 簡単に飛び移るのは、自殺行為」


マリーヌは足元を見ながら慎重に言う。


「しかも、高さがバラバラです……

 落ちたら、どこまで行くかわかりません……」


リズは祭壇のような光の核を見ながら呟く。


「そして――ただの足場移動だけじゃない気がする」


その瞬間だった。


“誰かの身体”が、少しだけ動いた。


そして、理解した。


(――これ、“自分で動かしてない”)


セレナがぴたりと動きを止め、低く言う。


「ちょっと――今、私の足、勝手に動いたんだけど」


ルクレツィアも眉をひそめる。


「こっちも。

 私の意思じゃない動きが、ほんの一瞬だけ混ざった」


エリシアが震える声で告げた。


「やっぱり……

 この階層、“身体と身体のリンク”をいじってる」


マリーヌが不安そうに僕を見上げる。


「アルス様……?」


僕は、ゆっくりと手を握って開いた。


自分で自分を動かしている――

けれど、それは“完全に”ではないような。


「……誰か、手を挙げてみて」


そう言うと、

マリーヌが素直にぴっと右手を挙げた。


同時に――


セレナの左手が挙がった。

ルクレツィアの片足が勝手に一歩前に出た。

リズの髪がふわりと浮いた。

エリシアの視界が一瞬だけ揺れた。


「っな――?!」


全員が同時に叫ぶ。


エリシアが青ざめた顔で言う。


「……身体の“操作権”が、ランダムで共有されてる。

 誰かが動く意志を出すと、その一部が別の誰かに反映される」


セレナが顔をしかめた。


「つまり――

 この階層でヘタに動こうとすると、

 誰かの足が勝手に出たり、バランス崩したりするわけね」


ルクレツィアは、苦笑に近い顔になる。


「ほんと、性格の悪い階層ね」


リズが核心を言う。


「“一人ずつの身体操作”では攻略できない、ってこと。

 七人の行動を“同時に”考えないと」


マリーヌが困ったように眉を下げる。


「でも、これ……

 私、踏んじゃいけないところ踏みそうで怖いです……」


僕は、胸の奥で動き出す《フェイトリード》を感じながら

ゆっくりと言った。


「じゃあ――

 “誰かだけが全部決める”のはやめよう」


セレナが首を傾げる。


「どういう意味?」


「全員が、自分の動き“だけ”じゃなく、

 隣の動きも想像しながら動くんだ。


 足を出すときは、“自分+誰か”で一歩。

 剣を振るときは、“自分+誰か”で一振り。


 七人分の心で、“ひとつの身体”を動かすイメージ」


エリシアがはっと息を呑む。


「……そうか。

 今までは、“それぞれの身体+連携”だった。


 ここでは“ひとつの身体=七人の感覚”って前提で動けば――

 同期がとれる」


ルクレツィアが笑う。


「なるほどね。

 厄介だけど、面白いじゃない」


リズも頷いた。


「迷宮は、

 “七人の陣形”を見たあとだからこそ、

 こういう試練を用意してきたのね」


マリーヌが不安そうにしつつも、小さく拳を握る。


「やってみたいです……!

 アルス様とみんなのことを、もっと感じながら動きたいです!」


セレナが照れくさそうに、でも笑って言った。


「じゃ、やってみましょ。

 どうせここでビビってても進めないしね」


◆◆◆


まずは、最初の一歩。


円盤と円盤の距離は、

人が跳べないほどではない。


でも、もしタイミングを間違えれば――

誰かの足が勝手に出て、誰かが落ちる。


僕は目を閉じ、

胸の奥にいる“七人分の呼吸”を感じ取る。


セレナの呼吸。

マリーヌの呼吸。

エリシアの呼吸。

ルクレツィアの呼吸。

リズの呼吸。


そして、自分自身の。


「……せーの、で行く」


「“せーの”って言ってから踏み出すんじゃないの?」

セレナがツッコむ。


「違う。“せ”で膝、“の”で踏み切り、伸ばし切った瞬間に着地。

 それ全部を“七人分”イメージする」


エリシアが苦笑する。


「もはや体育というより宗教ね」


それでも――

誰も反対しない。


まずは一番近い円盤へ。


僕は深く息を吸う。


「いくよ――」


一瞬。


僕の頭の中に、

七色の線が描かれた気がした。


セレナは、左足から。

マリーヌは、右足から。

エリシアは、怖くて少し出遅れる。

ルクレツィアは、迷わず一歩。

リズは、慎重に重心を下げている。


その全部を――“同時に”イメージする。


「――せーの」


踏み込む。


視界がふわりと揺れた。


僕の足と、誰かの足が、

一瞬だけ重なった感覚。


足元の操作権が混ざる。

でも――


(知ってる。

 今、その子はこう動く)


手綱のように未来を“調整”する。


《フェイトリード》が、

七人分の足の着地点を、ほんの少しだけ修正していく。


ドン、と足場を踏む音が、

七つ同時に鳴り響いた。


誰も、落ちていない。


マリーヌがぱあっと顔を輝かせる。


「できました……!

 ちゃんと、全員乗れました!!」


セレナも驚いたように笑う。


「今、一瞬、

 アルスと一緒に足出した感覚あったんだけど」


ルクレツィアも頷く。


「ええ。

 誰かの動きが、自分の中に“流れ込んできた”感じ」


エリシアは目を細める。


「この階層――

 “個人プレーのための連携”じゃなく、

 “ひとつの存在としての連携”を要求してる」


リズは静かに言葉を紡いだ。


「試されているのは、“信頼”ね」


◆◆◆


そこから先は、

まるでダンスのような移動になった。


円盤が縦に動いたり、

横にスライドしたり、

突然回転し始めたり。


そのたびに、

誰かの足が勝手に前に出ようとし、

誰かの腕がバランスを取ろうとする。


セレナが滑りそうになった瞬間、

マリーヌの身体が勝手に引っ張られ――


「わっ!? あ、でも――ナイス引き寄せです!」


エリシアが転びかけたときには、

ルクレツィアの腕が自然と支えるように動き、


「……今の、私じゃなくてあなたの意思ね」

「そうね。

 でも“支えたい”って感情はどっちも同じでしょう?」


リズがふわりと浮きそうになったときは、

僕の身体が勝手に“抱きとめる位置”に入っていた。


その瞬間、

セレナとルクレツィアとマリーヌとエリシアが

同時にジト目になったのは言うまでもない。


「……アルス」

「……アルス」

「……アルス様?」

「……アルス君」


「いや違うから!? 今の完全に“向こう側の意思”だから!?」


リズだけがくすっと笑い、

でも頬をうっすら赤くしていた。


そんなやりとりをしながらも、

七人の呼吸は少しずつ揃っていく。


一歩。

跳躍。

着地。


円盤が崩れ落ちる直前に、

別の円盤へ滑り込む。


全員の動きの誤差は最初より確実に少なくなった。


(体力も集中力も削られる。

 でも、この階層は“七人で進むこと”自体が目的だ)


心が、前よりも濃く繋がっていくのを感じる。


誰かの不安。

誰かの期待。

誰かの独占欲。

誰かの恐怖。


全部が、薄く混ざって、

七人分の“ひとつの感情”になっていくみたいだった。


「――もう少しで、中心」


エリシアがそう言ったとき、

光の核はすぐ目の前だった。


◆◆◆


最後の飛び移り。


そこだけは、

足場が一つしかなかった。


つまり――

全員が“密着するレベル”で乗る必要がある。


セレナが顔を真っ赤にする。


「ちょ、これ絶対狭いって……!

 ぎゅうぎゅうよ!!」


マリーヌは少し嬉しそうに尻尾を振る。


「みんなとくっついてるの、私は嫌じゃないです……」


ルクレツィアも咳払いしながら言う。


「変なところ触ったら、斬るから」


「え、どこの話?」


リズがくすっと笑う。


「最後くらい、素直に“支え合い”ましょう?」


エリシアがため息をつきながらも笑っている。


「こういうのも含めて、“試練”なのよね、きっと」


僕は、剣の柄を軽く叩いて言った。


「じゃ、ラスト一回――

 七人で一歩だ」


全員が、頷く。


呼吸を合わせる。


七人分の心臓の鼓動が、

ひとつのリズムになる感覚。


「――せーの」


踏み込んだ瞬間、

世界が真っ白になった。


◆◆◆


次に目を開けたとき、

七人全員が、小さな円盤の上に立っていた。


ぎゅうぎゅうに、

文字通り密着した状態で。


セレナの腕が僕の肩に乗り、

マリーヌが背中にしがみつき、

エリシアとルクレツィアが両側から支え、

リズが正面から押し返すように立っている。


誰も落ちていない。


光の核が、

目の前でゆっくりと形を変えた。


それは、

七つに分かれた光の欠片になった。


そして――

それぞれの胸元へ飛び込んでくる。


「っ……!」


胸に暖かさが灯る。


迷宮が、

七人すべてへ“認証”を刻んだのがわかった。


エリシアが息を吐く。


「……合格、ってことね」


リズが微笑みながら言う。


「七人で“ひとつの身体”みたいに動けた証」


ルクレツィアが胸を張って笑う。


「当たり前でしょ。

 私たちは――“七人でアルスのパーティ”なんだから」


セレナがにやりと笑う。


「次、どんなギミックが来ても、

 もう怖くないわよ」


マリーヌは尻尾を揺らしながら、

幸せそうに呟いた。


「みんなと、もっと一緒に進みたいです……」


僕は、胸の中の光を握るように感じながら言った。


「このまま、迷宮の底まで行こう。

 七人で」


光の核が完全に消え、

目の前に新しい階段が現れた。


迷宮は、

確かに“七人”を認めた。


だが、その奥で――

誰かが笑っている気配も、確かにあった。


仮面の人物か。

迷宮そのものの意志か。

あるいは、もっと別の何かか。


それでも、進む。


七人でしか見られない未来が、

この先にあると信じて。


階段へ一歩。


七人の足音が、

再び闇の中へと消えていった。

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