第60話
階段を降りきった瞬間、空気が変わった。
さっきの草原とは正反対――
研ぎ澄まされた冷気、金属のぶつかり合う高い音、
血や鉄の匂いが渦巻く“戦場の気配”。
目の前に広がっていたのは、
巨大な“円形の闘技場”だった。
ドーム状の天井が暗く光り、
観客席のような階段状の石段が囲う。
その中央――
無数の“鎧の兵士”が整列していた。
青白い炎を目に宿した、
無機質な鎧の兵団。
その数――百は超えている。
セレナが息を呑んだ。
「すっご……本気で軍勢じゃない……」
マリーヌが毛並みを逆立てる。
「生き物ではありません!
全部、魔力で動く鎧の兵士です!」
エリシアが視線を走らせた。
「動作は均一、自己判断能力は低い。
“型の兵団”――迷宮が軍事シミュレーションをしてる」
ルクレツィアは剣を握りしめる。
「つまり――数と統率で押しつぶす戦術」
リズの表情は静かだが鋭い。
「私たちが“連携”で黒騎士を突破したから、
今度は“集団戦の連携力”を問うつもりね」
全員が理解していた。
脳裏に浮かぶ言葉は、
七人同時だった。
――七人の陣形で勝て、ということ。
◆◆◆
鎧の兵士たちが一斉に剣を掲げた瞬間、
空気が震えた。
足並みは乱れない。
武器の角度も速度も寸分違わない。
「来る――っ!!」
最初の突撃は“盾兵”22人。
円形陣で壁を作り、
背後から槍兵、弓兵、魔術兵が控える。
(典型的な軍陣……だけど速い)
僕は即座に指示を飛ばした。
「マリーヌは前衛の“穴作り”!
セレナは援護の爆撃準備!
エリシアは敵構造と術式解析!
ルクレツィアは俺と正面突破!
リズは範囲の生存維持!!」
全員声を揃えた。
「了解ッ!!」
◆◆◆
最初の衝突は一瞬だった。
盾兵が雪崩のように迫り、
その巨盾がそのまま押し潰しに来る。
僕とルクレツィアは剣を交差させ、
突破するための道を作る。
「破ァァッ!!」
「どきなさい!!」
盾が割れ、兵士がはじけ飛ぶ。
そのわずかな隙間を――
「行きますっ!!」
マリーヌが滑り込み、
盾兵の“足首だけ”を高速で叩き斬った。
兵士が数体同時に転倒し、
左右へ波のように崩れる。
そこへ――
「セレナ、今!!」
「任せなさい!!」
中距離支援の爆撃が降り注いだ。
「《紅鎖爆嵐》!!!」
倒れた盾兵を起点に、
炎が鎖状に連鎖し、十数体をまとめて焼き崩した。
だが――
「後衛、魔術兵の詠唱!!」
エリシアが叫ぶ。
ルクレツィアと僕は瞬時に反転し、
詠唱組へ突撃する。
しかし槍兵の投擲が雨のように降る。
「させません!!」
リズの“広域防御”が展開した。
「《聖盾の恩寵》!!」
光の結界が広がり、
無数の槍を弾き返す。
槍が地面に突き刺さった音が、
雷のように鳴り響く。
その隙に僕たちは一気に距離を詰めた。
「せぇええッ!!!」
「ハァアアッ!!」
斬撃と打撃が火花を散らし、
後衛の魔術兵が次々と崩れていく。
だが――
まだ終わらない。
◆◆◆
全鎧兵の動きが突然止まり、
鎧の隙間から黒い霧が噴き出した。
セレナが叫ぶ。
「ちょっと!?
何これ、全員強化された!?」
エリシアが即座に分析する。
「魔力路が一本化――
全兵士が“ひとつの生命として”動く!!」
リズは息を呑んだ。
「“群体”になる……!」
その瞬間、
百体の鎧兵が――足並みも声もなく、
完全な一体のように襲いかかってきた。
槍、盾、弓、剣、魔術――
すべてが同時に、
ひとつの個として完成されたような攻撃。
ルクレツィアが低く呟く。
「これはもう、軍じゃなくて――
“怪物”」
◆◆◆
だが、僕たちは止まらない。
「いいさ。
じゃあこっちも――七人で一体になる」
僕は《フェイトリード》を全員へ繋げる。
未来の枝が、七人の意志と重なる。
「みんな――呼吸、合わせろ」
息を吸う。
七人同時。
鎧兵が突撃する。
七人も同時に動く。
・マリーヌが最前列をかき乱す
・セレナが崩れた軸に爆撃
・エリシアが敵の魔力路を書き換え
・ルクレツィアが火力で押し込み
・リズが全体を守り
・僕が全体の未来座標を調整し
・誰一人欠けさせない方向へ導く
全部が噛み合った。
七つの戦術が――
一つの“陣形”になる。
僕たちは同時に叫んだ。
「――突破ッ!!!」
七人の陣形が鎧兵の軍勢を貫き、
黒い霧ごと粉砕する。
最後の兵士が音もなく崩れ落ちた。
静寂。
長い戦いだったが――
全員生きている。
◆◆◆
戦いが終わると、
全員その場に座り込んだ。
呼吸は荒く、体は限界。
でも――笑顔だった。
セレナが僕の肩にもたれながら言う。
「七人で勝ったわね……
最高にしびれる勝ち方よ」
マリーヌは尻尾を揺らしながら泣き笑い。
「アルス様が導いてくれたからです……!」
エリシアは眼鏡を押し上げながら微笑む。
「理屈を超えた勝利……
本当に、あなたは理不尽よ」
ルクレツィアは胸を張り誇らしげに言う。
「でも――この陣形の中心は、あんたよ。
それを忘れないで」
リズが静かに祈りの言葉を紡ぐ。
「七人が一つになる未来を……
ちゃんと“掴んで”くれた」
僕は答えた。
「俺は、みんなを絶対に欠けさせたくない。
その未来があるなら、いくらでも戦う」
その言葉に、
全員が照れながら、でも嬉しそうに笑った。
◆◆◆
そのとき。
闘技場の天井にひびが入り、
黒い仮面が浮かび上がる。
仮面の人物の声が響く。
『よく突破したね、アルス。
でも――七人の陣形はもうばれてしまったよ?
次は、“誰かを外さなきゃ勝てない戦場”を用意しておく』
仮面の人物の声は続いた。
『一人欠けたら“崩壊する関係”ほど美しいものはない。
君たち、壊れた時が楽しみだよ』
全員が戦闘より強く怒りを燃やした。
だが僕は、ただ静かに言った。
「その未来は――絶対に来ない」
仮面の人物は笑った。
『なら証明してみせて。
七人の結末を、君の手で――』
黒い光が消え、
次の階層への扉が現れる。
◆◆◆
セレナがぼそりと呟いた。
「……いいわ、挑んであげる。
“七人の幸せ”を壊したいなら――
それこそ絶対にやらせない」
全員、強く頷く。
七人は立ち上がり、
扉の前に並ぶ。
僕らは七人で戦って七人で勝つ。
それが――証明すべき未来だ。
そして扉が、ゆっくりと開いた。




