表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に〜  作者: 暁 龍弥
少年編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

59/76

第59話

黒い欠片が淡く光り続け、

その光に導かれるように階段が伸びてゆく。


七人はゆっくりと歩き出した。

誰も言葉を発さない――

疲労と達成感、そして次の不安が複雑に混ざっている。


そんな静寂を、セレナが破った。


「……ねえ」


小さなため息とともに。


「死ぬかと思った。

 ほんとに、マジで死ぬかと思った」


マリーヌもすぐ続く。


「私も……途中で手が震えてました……怖かったです……」


エリシアも無理に冷静を装うことをやめた。


「終わったあとも手足の神経が痺れてるの。

 あれは“人が戦う相手じゃない”」


しばらく沈黙。


でも――

そのあと、全員が微笑んだ。


セレナが肩をすくめる。


「でもまあ……生きてるんだから、勝ちよね」


「ですね!」

マリーヌが元気よく頷く。


ルクレツィアは現実的な口調で言う。


「この調子で行けば、次の階層でも勝ち筋は必ずある」


エリシアは疲れた顔のままで笑った。


「たまに正気を疑う選択もあるけど……

 今のところ、全部正解してるしね」


リズも静かに語る。


「“未来を選ぶ”というのは、

 結局あなたが私たちの手を離さないってことよね」


僕は苦笑した。


「離すつもりはない。

 絶対に」


その言葉に、

全員の表情がほんのわずか変わった。


安心。

切なさ。

期待。

独占欲。

感謝。


全部混ざった、

複雑で温かい反応。


◆◆◆


階段をのぼりきった先には――

予想外の光景が広がっていた。


真っ白な草原。

柔らかな風。

鳥のさえずり。


迷宮とは思えないほど、温かい“昼の世界”。


セレナが目を丸くする。


「え、なにこれ……世界観どうなってんの……?」


マリーヌはくんくんと鼻を鳴らす。


「本物の草です。

 匂いも太陽も、全部自然です……」


だが、エリシアはすぐに違和感に気づいた。


「……違う。

 “演算された自然”。

 魔力と精神を最適値に調整するための“休息空間”」


ルクレツィアは、周囲を見渡しながら言う。


「つまり――気を抜けば殺されるってことね」


リズは静かに頷いた。


「休息と油断は似ているけれど、違う。

 迷宮が求めているのは“依存”。

 ここに甘えてしまうと、心が緩み、戻れなくなる」


その瞬間だった。


風が形を変え、少女の姿になった。


長い髪、白いワンピース――

あどけない笑みの、あまりにも無垢な子供。


声は澄んでいた。


「こんにちは、冒険者さんたち。

 ここは“あなたたちが帰ってきた場所”。

 安心して休んでいいの」


マリーヌが小さく身を震わせる。


「……かわいい見た目なのに、匂いが怖いです」


セレナが低く呟いた。


「油断させようとしてるな、これ」


その少女は僕だけを見つめ、無邪気に笑った。


「あなたはよく頑張ったね。

 もう戦わなくていいんだよ?」


胸の奥が、ぐっと掴まれる。


(戦わなくていい――)


その甘い言葉は、あまりにも残酷だった。


僕が口を開こうとした瞬間、

両隣から手が伸びた。


セレナが左手を、

ルクレツィアが右手を掴む。


言葉より先に“力”で引き戻してきた。


「立ちなさいよ、バカ」

セレナが強く握った。


「油断したら、殴る」

ルクレツィアも力をこめた。


その後ろでマリーヌが涙目で叫ぶ。


「離れちゃダメです……!!

 ここで手を離したら……絶対ダメです……!!」


エリシアが冷静に告げる。


「その子は“精神の最適化プログラム”。

 休息の誘惑で心を溶かし、戦う気力を奪うのが目的」


リズは聖印を構え、少女へ宣告する。


「――退きなさい。

 ここは“止まる場所”じゃない」


白い少女は、少し寂しそうに首を傾げた。


「そっか……

 じゃあ、ここでは“あなたたちの愛”を確かめようか?」


次の瞬間、世界が割れた。


草原が砕け、空が歪み、

七人の姿が“円形に”配置される。


その中心に、白い少女が浮かぶ。


「ルールは簡単。

 “最も弱く想っている相手”が攻撃される」


全員の顔が凍りつく。


「自分にとって“本当に大切じゃない人”を

 心の奥底で選んでしまったら、

 その人が死ぬ」


セレナが震える声で言う。


「心の奥底の選択を……強制的に……!?」


エリシアが青ざめた。


「思考じゃない。

 反射で選ばれた対象が狙われる。

 逃れられない……!」


ルクレツィアが苦く唇を噛む。


「自分の一番大切な人を思っていても、

 その“裏返し”にある劣後順位まで暴かれるってこと……」


マリーヌは泣き叫ぶ。


「やめてください!!

 アルス様の誰も傷つけたくないです!!」


リズは白い少女を睨みつけて言う。


「アルスに“選ばせる”つもりね」


白い少女は嬉しそうに手を叩く。


「そうだよ。

 “愛”を試すの。

 仲間の中で誰をいちばんに想ってるか――

 誰をいちばん最後に想っているか。

 差を、はっきりさせるの」


全員が息を呑んだ。


誰も、

誰も傷ついてほしくないのに。


でもこの魔法は、

“心の奥底”の優先順位を無理やり引きずり出す。


白い少女の指先が光る。


「はい、開始――」


そのときだった。


僕は、セレナとルクレツィアが握る両手に力を込めた。


マリーヌが背中へしがみつき、

エリシアとリズが僕の両肩に触れた。


全員が、

“つながった”。


白い少女が楽しげに笑う。


「へぇ……?

 “誰も選ばない”つもり?」


僕は――笑った。


「選ぶよ」


全員の視線が僕へ向く。


僕は、誰の手も離さずに言った。


「“誰も最後にしない未来”を選ぶ」


白い少女の瞳が、揺れる。


「そんな未来――ひとつもないよ?」


僕は答える。


「あるよ。

 俺が“作る”」


その瞬間――

《フェイトリード》が起動する。


心が、七つに繋がったまま、

未来の枝へ手を伸ばす。


“誰も最下位にならない”

“全員が一番大切になる”

“等しく守られ、等しく愛される”


そんな未来は、

世界のどの枝にも存在しない――


だから掴む。


僕の選択で、

“未来そのものを作る”。


白い光が弾け、

草原が砕け、

白い少女が悲鳴をあげる。


「そんな未来――

 ズルいよ、ずるいよッ!!!」


最後に響いた少女の叫び。


「こんな“理不尽な愛”が通るなら――

 次はもっと、もっと壊しにくるからね!!!」


世界が砕け、

現実へ戻る。


草原は消え、

次の階層の入口が姿を現した。


七人は、まだ繋いだままの手をそっと離す。


セレナが照れ隠しで言う。


「……バカみたいにかっこつけるんだから」


マリーヌが泣き笑いする。


「私……しあわせです……」


エリシアは赤くなりながら小声で。


「……そういう未来を作るって言うのは、

 ちょっと反則よ」


ルクレツィアは胸を張って笑う。


「上等よ。

 その未来、奪りにいくから」


リズはうっすら涙を浮かべながら囁く。


「ノアの頃より――ずっと難しい男ね、あなた」


僕は、照れも見栄もなく答えた。


「全員、大切なんだ。

 だから全員一番になる未来を、

 俺は選ぶ」


そして――

七人は次の階層へ歩き出した。


迷宮が震える。

運命の枝が、さらに深く絡まる。


ここからが本当の“愛”の試練。

そして“真実”への入口。


止まらない。

戻らない。

七人で進む。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ