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愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に〜  作者: 暁 龍弥
少年編

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第57話

闘技場の静寂を破るように、

巨獣の亡骸が霧となって消えたあと、

しばらく誰も言葉を発しなかった。


セレナ、マリーヌ、エリシア――

三人とも、僕に手が届かなかった時間の恐怖で震えていた。


その震えを誤魔化すように、

セレナが唇を噛んだまま吐き捨てる。


「……アルス。

 あんた、さっきの戦いの途中で、

 “未来を見て”動いたでしょ」


心臓が跳ねた。


マリーヌも涙目で頷く。


「アルス様……攻撃が来る前に避けてました……

 あれは、普通じゃないです……」


エリシアは冷静を保とうとしていたが、

声だけがわずかに震えている。


「未来予知でも予測でもなく……

 “運命の枝の操作”。

 あなた、無意識で《フェイトリード》を使っている」


僕は否定しなかった。


何を言っても嘘になる。

そして嘘は、彼女たちを傷つける。


だから――言う。


「俺は、未来を読んでいるんじゃない。

 “正しい未来を選んでいる”」


三人が同時に息を呑んだ。


未来を読む者は、観測者。

未来を選ぶ者は――運命の干渉者。


それは、怪物か英雄か、

世界を変える存在。


セレナが怒鳴る。


「だったら!!

 なんでそれを全部一人で抱え込むのよ!!」


マリーヌも涙をこらえたまま訴える。


「アルス様は、私たちの大事な人です……

 だったら、私たちにも“守らせて”ください……!」


エリシアが続ける。


「危険を共有してくれなきゃ、

 私たちはあなたを守れない」


心が痛む。


でも――この痛みは嫌じゃない。


僕は三人のほうを向き、短く答えた。


「ごめん。

 これからは……全部伝える」


セレナが顔を背け、ぽつり。


「最初からそうすればいいのよ……バカ」


マリーヌが笑いながら泣く。


「約束ですからね!!

 破ったら、怒りますから!!」


エリシアは少し赤面しながら小さく頷く。


「……信じてるから」


その瞬間――

足元の魔法陣が淡く光り始めた。


灰色の闘技場が、次の階層への“転移準備”に入ったのだ。


「急ごう。次に進む」


僕がそう言うと、三人も立ち上がり、

全員が円陣のように肩を触れ合わせた。


次の瞬間、視界が白く染まる。


◆◆◆


──同時刻、別階層。


リズとルクレツィアは、

迷宮が作り出した記憶の幻影を打ち破り、

灰色の結晶を手に入れていた。


そして結晶が光り、次の階層への扉が現れた。


ルクレツィアが剣を収め、ひとつ息を吐く。


「……やっと追いつける」


リズも胸に手を置き、光の扉を見つめる。


「ねえ、ルクレツィア」


「なに?」


リズは真剣な顔で言った。


「もし、アルスが“ノアだった頃の記憶”を取り戻して、

 私のほうを選んだら……どうする?」


それは挑発ではなく、

恐怖と希望が半分ずつ混ざった問いだった。


ルクレツィアは微笑む――が、その瞳は鋭い。


「その時は、私が“今のアルス”に好きって言わせる」


リズの目がわずかに揺れ、

すぐに少しだけ笑った。


「……ほんと、強いわね」


「あなたが弱すぎるだけ」


「たしかに。

 でも、負ける気はない」


言い争いじゃなく、

宣戦布告でもなく――


誇りと恋を賭けた、真正面の言葉。


二人は同時に光の扉をくぐった。


◆◆◆


──さらに、同時刻。

迷宮のずっと奥。


黒い水面のような空間。

そこには、銀の仮面の人物が立っていた。


闘技場での戦闘を思い返すように、

自分の手を見つめている。


「……やっぱり、

 アルスは“ノアとしての基準値”を大きく超えている」


仮面の下の声は何の感情もなく、

しかしどこか陶酔にも似ていた。


「フェイトリードの再発動が、

 意図的じゃなくても成功した。


 選択の精度が、当時より高い」


仮面の人物は水面に触れる。

闇の中に“未来の枝”が揺らめく。


「迷わせる必要はない。

 強制でも、説得でも足りない。


 アルスが自分の意志で思い出す――

 それが“条件”」


わずかに、声の色が変わる。


「次は、“嫉妬”と“選択”」


そして静かに宣言する。


「ここからが本番」


黒い水面に波紋が広がり、

未来の枝が無数に散らばっていく。


◆◆◆


──同時刻、迷宮そのものの内部。


“意識”が揺れていた。


“観測”

“記憶”

“選択”

“器”


複数の概念が折り重なり、

迷宮の深層に存在する意志が静かに感じ取っている。


アルス・アドマイヤ

――否

ノア


“鍵”

“基準値”

“試練”

“侵入許可”


迷宮は、

怒りでも歓喜でもなく、

ただ淡々と“対象”を認識し、処理を進める。


《深層解放準備開始》


世界のどこかで、

“まだ壊れていない扉”が震えた。


◆◆◆


視界が戻る。


転移の光が消えた先は――


灰色ではなく、黒と蒼。


広大な円形の空間。

底が見えない深い闇。

天井には満天の星のような魔力光。


そこに立つ影は――四人。


セレナがささやく。


「……きた」


マリーヌは耳を伏せて震えた。


「すごい……匂いが……

 アルス様、これは……“生き物じゃない”」


エリシアが目を見開く。


「ダメ。あれ、概念系……

 魔法体系じゃ説明できない」


僕は息を飲む。


そこに立っていたのは、

黒い甲冑に身を包んだ騎士。


しかし、頭部がない。


首から上に空白があるのに、

存在が成り立っている。


それは“王”の風格を持ち、

剣を引きずりながら歩み出す。


《深層守護者――黒騎士アイン・ヴァンガード


ただ立っているだけで、

世界が軋むような圧。


セレナが低く言う。


「アルス。

 これは……他の階層とは桁が違う」


僕は頷いた。


「わかってる。

 だから――絶対に死なせない」


黒騎士が剣を構えた瞬間――


別の光が降り注いだ。


「見つけた!!」


ルクレツィア。

そしてリズ。


結晶の光に包まれて転移してきた二人が、

僕の横に並ぶ。


遅れて息を弾ませながら――しかし、笑顔で。


「追いついたわよ、アルス!!」


「遅れた罰として、危険な役は全部任せてね」


セレナが苦笑し、マリーヌが泣き笑いし、エリシアが安堵し――

戦列が、七人で整う。


黒騎士は沈黙したまま、ゆっくりと剣を掲げた。


世界が震える。


僕は剣を抜く。


仲間の息が揃う。


「行くよ――みんな」


七人の声が重なる。


「隣で戦う!!」


闇が裂け、光が走る。

運命の枝が交差し、ひとつの未来へ向かっていく。


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