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愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に〜  作者: 暁 龍弥
少年編

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第53話

視界が戻った瞬間、

風すら動かない静寂の世界が広がっていた。


足元は灰色の石畳。

空も壁も床も、すべてが“灰色”。

光源はないのに薄く光っている、奇妙な空間。


第六十階層――

通称《灰色の領域グレイ・ドメイン》。


僕は剣を構え、全周に意識を巡らせる。


「……周囲に生命反応なし。

 でも、罠の密度が異常」


エリシアが即座に術式を走らせた。

魔力探知が四方の壁に反射し、複数の光点が浮かび上がる。


全部が罠。


「地面、床、空間。

 “全部”に見えない機構が組み込まれてる。

 ただの階層じゃない――最初から侵入者殺し」


セレナが舌打ちする。


「面倒ね。

 いきなりコレとか、迷宮の深層は本気すぎるわよ」


マリーヌが僕の袖を軽くつまんでくる。


「アルス様、くれぐれも“単独で突撃”は禁止ですからね!?

 フラグですからね!?」


「わかってるよ」


そう言った瞬間、

石畳が“音を立てずに”溶けた。


まるで足場が液体になったようにぐずりと崩れ、

深い闇が口を開く。


「来たっ!!」


ルクレツィアがいち早く僕の腕を引く。

その一瞬の遅れが命取りになる攻撃だ。


地面――

いや、“この階層そのもの”が敵。


リズが光を放つ。


「《聖刻のセラ・アンカー》!」


光の杭が地形に刺さり、広範囲の崩落を一時停止させる。

しかし停止は一瞬。


「長く持たない! 移動して!」


「移動先も安全とは限らないわよ!」

セレナの警告。


罠が地形単位で配置されているなら、

“安全な場所”という概念は存在しない。


一歩が、死。


呼吸すら、判断の材料になる。


僕は仲間を見渡し、言った。


「全員、俺の後ろ」


最前に立ち、剣を横に構える。


英雄らしく見せたいわけじゃない。

ただ――この階層には覚えがある。


十年前、

帝都を守る戦いの後に潜った、

“記憶が曖昧になる階層”。


俺の足跡が、かつてここにある。


(わかる……罠の“順番”。

 これを踏めば、あれが動く)


迷宮にしかない、

第七十以降特有の“連動罠アルゴリズム”――感覚として残っている。


右足、半歩。

左斜め前、三分の一歩。

杖の角度、仲間との距離、呼吸のリズム。


全部条件。


未来を“導く”のではなく、

“この階層が用意している未来を読む”。


「――行くよ」


一歩踏み出す。

石の表面が震える。


けれど崩れない。


その直後、右側の天井から刺突罠が落ちる。

だが、そこは誰も通っていない。


「“誘導発動……?”

 アルス、罠の作動位置を変えたの?」


エリシアが驚愕の声を漏らす。


「いや、違う。

 元からこう仕組まれてる。

 “踏むべき床”と“踏んではいけない床”が交互。

 俺がやってるのは――正解ルートをなぞってるだけ」


セレナの目が見開かれる。


「ちょっと待って、普通そんな判断できないわよ!?

 こんなの感覚でやるなっての!」


「理屈じゃないんだ。

 “覚えてる”っていうより、“身体が知ってる”」


誰も口を挟まない。

でも目は全員、僕を信じている。


胸が熱くなる。

支えられているんじゃない――一緒に立っている。


10分、20分、30分……

ゆっくり、確実に進む。


罠は容赦なく発動し続けた。

触手の壁、転移槍、幻影による位置ずれ、毒霧。


そのすべてを読み切り、回避し、誘導する。


やがら、灰色の階層の奥に

“ぽっかりと空いた空間”が見えた。


そこだけ、光が濃い。


――出口だ。


セレナが疲れ笑いをこぼす。


「もう……ほんと心臓持たないわよ……

 アルスがいなかったら、3秒で全滅してた」


「全滅なんてさせないよ」


マリーヌが涙目で尻尾を揺らす。


「はぁぁ……アルス様……

 もう大好きすぎてどうしよう……」


エリシアが止めに入る。


「はいはい、感情パニックは後で。

 まずは――あの部屋の中身を調べる方が先」


ルクレツィアが剣に手を添える。


「“歓迎”とは思えないわね。

 あまりにも露骨に出口らしすぎる」


リズも歩みに合わせて微笑を消す。


「でも、進むしかない。

 ここは“最初の試金石”。

 この程度で止まるようなら、この先は絶対に無理」


僕は頷き、部屋へ足を踏み入れた。


◆◆◆


中は、空っぽだった。

床も壁も天井も、すべて同じ灰色。

罠の気配も、敵の気配もない。


――何もない。


エリシアが眉をひそめる。


「……空間が“空白すぎる”。

 構造物がないこと自体が異常」


セレナが天井を一瞥。


「敵がいないってより、

 “敵が来るのを待ってる空間”って感じ」


マリーヌが僕の袖を強く握る。


「アルス様、なんだか嫌な匂いがします」


その言葉と同時に――

灰色の床に“文字”が浮かび上がった。


視界に、直接突き刺さる単語。


《次の階層を開けるには――記憶をひらけ》


セレナが息を呑む。


「……ねぇ、これ」


リズが続ける。


「“記憶”って、アルスを指してるわ」


エリシアが青ざめる。


「迷宮が……アルスの記憶を“鍵”にしようとしてる」


ルクレツィアの声が震える。


「まるで、アルスの正体を暴こうとしているみたい」


部屋の奥に、灰色の扉が現れた。

そこには文字が刻まれている。


《ノアを思い出せ》


空気が止まった。


僕の心臓だけが音を立てる。


視界の端で仲間たちの表情が変わっていく。


セレナ――驚きより、混乱。

マリーヌ――涙目の拒絶。

エリシア――恐怖と解析意欲の板挟み。

ルクレツィア――震えるほどの不安。

リズ――ただ静かに、僕を見ている。


全員の反応が痛いほど伝わってくる。


だが――


扉は、僕を呼んでいる。


記憶。

前世。

ノア。


(思い出せば、扉は開く)

(でも、それは仲間を――遠ざけるかもしれない)


胸の奥で《フェイトリード》が脈打つ。


未来は無数。

どれを掴むかは、僕の選択。


仲間を見渡す。

言葉を待ってくれている瞳。


だから、逃げない。


ゆっくりと、

灰色の扉へ歩き出した。


胸が締めつけられるほど痛くても、

進むしかない。


十年前、誓ったから。


「――俺は、選ぶよ」

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