表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に〜  作者: 暁 龍弥
少年編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

44/76

第44話

灰色の怪物が咆哮し、黒い瘴気を撒き散らした。


世界そのものが軋むようなうねり。

空が裂け、瓦礫が浮かび、魔力の流れが乱れる。


普通なら――戦闘行動どころではない。

立っているだけで精神が砕ける。


けれど、僕たちは立っていた。


いや、立とうとしていた。


セレナが震える声で叫ぶ。


「エリシア、瘴気解析は⁉」


「無理ッ!!今のは魔力の“形”になってない!!

 理屈じゃ測れない!!」


「じゃあ、どうすればいいの……!」


その叫びは絶望じゃない。

“諦めずにもがく者の声”だ。


マリーヌは涙目で、それでも剣を構えながら言う。


「守れるのは……私たちしかいません……!!」


ルクレツィアが血を吐きながらも立ち上がる。


「王女としてじゃない……

 “アルスの隣にいたい”から戦うのよ……!!」


胸が締めつけられた。


(僕は……守られてばかりだ)


世界が叫びをあげる。


怪物が城壁に触れようとした瞬間――

カレン(騎士団長)が化け物の腕を斬り払った。


「下がれ若造ども!!!! ここは――」


黒い衝撃がカレンを吹き飛ばした。


血が散る。


倒れながらも、牙を剥くように叫んだ。


「……まだ死んでない!! 戦えるぞ!!! 立て!!!」


たった一言が、全軍を奮い立たせた。


王家軍が咆哮を上げ、

灰色フードが衝撃波を撃ち、

ティノが風で市民を避難させ続け、

ヴァイスが結界で死者を一人でも減らそうと立ち続ける。


みんな――死に物狂いで戦っている。


その中で、僕は立ち尽くしていた。


(違う……僕が守るんじゃない……)


セレナの焦燥、

マリーヌの恐怖、

エリシアの苦悩、

ルクレツィアの覚悟。


それら全部を見て、ようやく気づいた。


――みんなが“僕に守られたい”んじゃない。

――みんなは“僕と生きたい”んだ。


だから、僕は――前に進む。


「セレナ!! マリーヌ!! エリシア!! ルクレツィア!!」


名前を呼ぶと、全員が涙と汗に濡れた顔で振り返った。


「作戦を伝える。

 “勝つ”んじゃない。“守り切る”ための動きだ!!」


短く、速く、鋭く指示を出す。


● セレナ → 遠距離・長期封鎖魔法

● エリシア → 瘴気の“流れ”を改変(無効化は不可)

● マリーヌ → 攻撃ではなく“警戒と回避の誘導”

● ルクレツィア → 前線で時間を稼ぐ


4人は一度も否定せず頷く。


「了解!!」


「承知しました!!」


「任せて!!」


「必ず帰る。それだけは約束させて!!」


涙が滲む。


(僕は本当に、守られていたんだ)


さらに叫ぶ。


「ザン!! 左前線ぶち抜いて敵の足止め!!」


「任せろ!! 死んでも開ける!!」


「死ぬな!!」


「了解だ!!!!!」


「ティノ!! 救助を続行!! 作戦維持に最重要!!」


「わかった!!! 絶対全員助ける!!!」


「ヴァイス!! 結界は全員優先!!」


「死なせない!! 全員生かす!!!」


「カイル!! サポートの優先度は“仲間の精神安定”!!」


「了解!! 泣く暇も青ざめる暇もないくらい、強化してやる!!!」


そして――


「カイ!!! 俺の後ろにつけ!!!」


全員が驚いた。


カイでさえ、わずかに目を見開いた。


「……命令、か」


「違う。“信頼”だ」


ほんの一瞬、沈黙が落ちた。


そしてカイが舌打ちするように笑った。


「……クソが。

 言われたからじゃねぇ。お前がそう望むからだ。

 ――後ろは任せろ」


それで、戦う理由が揃った。


怪物が再び咆哮すると同時に、

僕たちは全方向に散開し――


封鎖結界カタスト・バインド!!」


セレナの炎が塔のごとく立ち上がり、怪物の動きを縛る。


「流れ式・反転魔導エルネス・カタパルト!!」


エリシアが瘴気の動きを変えて、怪物の再生を遅らせる。


「危険度最大右斜め!! 左は回避エリア!!」


マリーヌの声に従って部隊全体が動き、

無駄な死者が劇的に減る。


「王女ルクレツィア、行くぞ!!!」


「当然!!」


二人が剣で怪物を引き裂き、

ザンが真正面から拳を叩き込み、

ティノが救助者を運び、

ヴァイスが傷ついた兵士を結界で包み、

カイルが全員を限界の先まで強化する。


戦場がひとつの意志になった。


そして――

僕は怪物の牙の前に立つ。


白フードの言葉が蘇る。


『“第三の選択肢”を選べるかどうか、見せてほしい』


黒フードの言葉も蘇る。


『守れると思うのなら、守ってみせろ』


(僕は――“僕”として生きたい)


剣を強く握る。


背後から、声が重なる。


「アルス、行け!!!」

「任せてください!!」

「あなたなら、できる!!」

「絶対に勝ちなさい!!」

「死んだら許しませんからね!!」

「支えてるぞ!!」


仲間も、ヒロインも、王女も、敵も。

全部背負って、それでもなお――


「俺は――前に進む!!!!」


光が溢れ、

滅びでも救世でもない輝きが剣に宿る。


怪物が再び咆哮した瞬間――


僕は、踏み込んだ。


目の前の“怪物の核”に届かせるために。


迷いなく。

恐怖なく。

誇りを持って。


「うおおおおおおおおおッッッ!!!!!」


剣閃が闇を切り裂き、

怪物の核に届いた瞬間――


世界が、ひっくり返った。


光。

爆音。

衝撃。

鼓膜が破れ、視界が白く染まった。


それでも手を離さなかった。


守るために。


守りたい人がいるから。


───────


光が止んだ時、

怪物は後退していた。


死んでいない。

倒れていない。


だが――「退けた」。


帝都全体が歓声に包まれた。


兵士たちの嗚咽。

灰色フードの安堵の声。

王族の祈るような涙。

仲間の抱き合う姿。


セレナが叫ぶ。


「アルス!! やったのよ!! あなたが止めたの!!!」


マリーヌは泣き笑いで抱きついてきた。


「本当に……本当に……生きててよかった……!!」


エリシアは目元を拭いながら微笑む。


「勝ったんじゃなくて、“守り切った”。

 それが今回の正解よ――アルス」


ルクレツィアは、涙を隠さず言った。


「……惚れるに決まってるじゃない……こんな人……」


カイだけは視線をそらし、低く呟いた。


「……本当にやりやがったな。

 お前は、“滅び”になれない」


その声は、怒りでも嘲笑でもなく――

認めた者の声。


そして、遠くの空に消えかける怪物の影を見て、

カイは冷酷に言った。


「……退いたのは一体だけだ。

 ――まだ終わりじゃない」


戦いは続く。


だが、帝都はまだ生きている。


僕たちはまだ立っている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ