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愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に〜  作者: 暁 龍弥
少年編

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第43話

地鳴りが続いていた。


帝都の外壁――東門。

巨大な城壁の向こう側の地平線が、濃い闇の波のように揺れていた。


普通の魔力の揺らぎじゃない。

炎でも雷でも瘴気でもない。

言葉にできない“圧”だった。


セレナが、城壁の上に立ったまま呟いた。


「……あれが、外側の“敵”……?」


震えを必死に抑えている声。

それでも目は逸らしていない。


マリーヌが耳を立て、息を詰める。


「……音も、匂いも、動きも全部……おかしいです。

 “生き物”のはずなのに……死んだまま動いてるみたい……」


生と死の境界を踏み荒らすような“ノイズ”が波のように押し寄せる。


エリシアは膝に手をつき、呼吸を整えるように言った。


「正体まではわからないけど……

 “魔法という体系の外側の存在”なのは確か」


魔法理論を生きる人間が、理屈を捨てて震える瞬間。


それほどの化け物が近づいている。


ルクレツィアが歯を食いしばり、剣を引き抜いた。


「帝国の民を守るために、ここで止める。

 たとえ王家がどうであろうと、それだけは“本物”よ」


炎に照らされた金髪が揺れる。

彼女は確かに“王女”だった。


だが――

その横に立つのは、王家軍だけじゃなかった。


灰色フードの部隊が整列した。

さっきまで敵対していた彼らが、王家軍と肩を並べる。


指揮官が叫んだ。


「アルス奪取は保留! 今は帝都防衛を優先する!!

 目的が“生存”で一致している今だけは、敵でも味方でもない!!」


王家軍の将校も叫び返す。


「承知! 殿下の命がなくとも、今は守るために剣を取る!!」


二つの勢力が激突から一転――

刃を揃えて同じ方向を向いた。


それでもカイだけは、城壁の端で背を預けて立っていた。


腕を組み、帝都外の闇を睨んでいる。


「……来るな」


誰に向けた言葉でもない。

願いにも祈りにも近い声だった。


僕は隣に立つ。


「止めたいのか?」


「止めたいに決まってるだろうが」


初めて、カイの声に感情が刺さった。


「世界が滅びようがどうでもいい。

 王家が国を滅ぼそうが知ったことか。

 だが――」


カイの視線は、僕のほうへ向けられた。


「お前が“あれ”に触れるのだけは、許さない」


その言葉には怒りでも憎しみでもなく――

焦燥と恐怖があった。


(僕を守りたい? 本気で?)


何かが胸の奥で揺れた。


だが、その感情を確かめる暇はなかった。


城壁の向こう――闇が裂けた。


“何か”が出てきた。


形は――曖昧。

生き物に見えるのに、死んでいる。

影に見えるのに、やたらと重い。

足があるのに、地を歩かない。

口があるのに、声を出さない。


世界の理を歪めるような“存在”。


見るだけで、意識が削れる。


兵士たちの何人かがその場で膝をついた。


「う、そだろ……あんなの、戦えるわけが……」


誰かが泣き、

誰かが叫び、

誰かが祈った。


でも――逃げなかった。


セレナが震える手で杖を掲げた。


「アルスに……触れさせない……!」


マリーヌが前に出た。


「アルス様の未来を壊すなら――敵です!!」


エリシアは魔導式を展開しながら宣言する。


「解析不能でもいい。“殺せないなら防ぐ”!」


ルクレツィアは剣を構えながら叫ぶ。


「王女としてじゃない!

 ――“一人の女”として戦う!!」


(……そうか)


護られている。

本当に、僕は。


だからこそ――

僕は守りたい。


大地が揺れ、闇の怪物が城壁に迫る。


兵士たちが一斉に咆哮を上げ、魔法と矢と剣を構える。


僕は胸の奥の光を呼んだ。


滅びの炎でも、救世の光でもない。

“第三の力”。


白フードが言った――

「君の意志の力」。


それを剣に込める。


(届くかどうかじゃない。届けるんだ)


息を吸う。


叫ぶ。


「――行くぞ!!!!!!!」


その瞬間、全勢力が“同時に”動いた。


王家軍の矢が、

灰色フードの衝撃波が、

セレナの炎が、

エリシアの術式が、

ルクレツィアの斬撃が、

ザンの拳が、

ティノの風が、

ヴァイスの防壁が、

カイルの支援魔法が、

そして――僕の一閃が。


ひとつの点に収束し、

帝都外縁に現れた“外側の怪物”へ直撃した。


轟音。

空気が破裂するような衝撃。


怪物は――怯んだ。


倒れていない。

死んでもいない。


だけど――“通じる”。


弾き飛ばされた怪物の巨体が地響きをあげて後退した時、

城壁の上に歓声と涙が溢れた。


セレナが泣き笑いで叫ぶ。


「効いた……通じたわ……!!」


マリーヌは涙で頬を濡らしたまま、誇らしげに笑った。


「アルス様が……届かせたんです……!」


エリシアは震える息を吐きながら言う。


「未知の存在でも“無敵ではない”。

 戦える……!」


ルクレツィアは剣を握ったまま、涙を浮かべていた。


「あなたは……本当に私たちを導く光……」


みんなが、僕を見ていた。


恐怖の中で――信じていた。


その瞬間だけは、“英雄”みたいに思えた。


でも目の前の怪物はまだ立っている。

ゆっくりと、こちらを見ている。


地響きのような咆哮。

再び動き出そうとした時――


カイが、初めて叫び声を上げた。


「下がれアルス!!!! そいつは――!」


次の瞬間、怪物の“核”から黒い光が広がり、

空間そのものが歪んだ。


世界がねじ切られるような音。


(……まずい)


僕は剣を握り直し、踏み込む。


無意識のうちに叫んでいた。


「守れ――!!!」


光が爆ぜた。


覚悟の先は、まだ見えない。


でも――

この一歩を踏み出さない限り、未来には届かない。

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