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愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に〜  作者: 暁 龍弥
少年編

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第4話 未来と今の狭間

父に抱きしめられたまま中庭を離れ、屋敷に戻る途中、僕はずっと考えていた。


――あのローブの男は誰なのか。

――なぜ僕にだけ見えたのか。

――「王家殺しの転生者」とはどういう意味か。


胸の奥で、記憶の断片がざわついているのに掴めない。

前世の“オレ”は、いったい何をしてきた?


父は書斎に戻ると、母と護衛騎士数名を呼び寄せ、屋敷全体に厳戒態勢を敷くよう命じた。


「アルスの身に、どんな危険が近づこうとしているのかは分からない。しかし、絶対に守り通す」


父の言葉に誰も逆らわない。

騎士たちは一気に真剣な空気になり、屋敷の外周、防壁、内部の要所へと配置されていった。


だが、その状況を見ていながら、僕の心はざわつき続けていた。


――狙われているのは、僕じゃない。

――“僕の中の誰か”だ。


守られるべきなのか、違うのか。

自分が何者なのか分からない不安が、身体の奥でじわじわと広がっていく。


そんな時だった。


「アルス様!」


マリーヌが駆け寄ってきて、僕の手をぎゅっと握った。


「大丈夫ですか?怪我はありませんか?あの黒いローブの人とは本当に会ったのですか?」


「うん、本当にいたよ。でも、父上には見えなかった」


マリーヌは眉をひそめ、獣人特有の耳を小さく震わせた。


「匂いは、しませんでした。ですが……魔力の残り香は、少しだけあります。とても嫌な気配です」


魔力。

この世界の住人なら普通の概念なのだろうが、僕にはまだ馴染みが薄い。


「マリーヌ。僕は狙われているんだろうか」


「……はい。間違いなく、アルス様を見ていました。あれは――“獲物を見る目”でした」


その言葉に、身体が固まった。


獲物。


前世で散々向けられた視線。

それが、今度は僕に向けられている。


「でも!」

マリーヌは力強く声を上げた。

「今度は、ひとりじゃないです!」


「……え?」


「アルス様は、この家で愛されています。シェイル様もヴィリアンス様も、わたしも、皆アルス様を大切に思っています。絶対に守ります!」


胸に熱が込め上げてきた。

知らなかった。

こんなに“守られる”ことが嬉しいなんて。


だが同時に――不安が込み上げる。


(守られるべきなのは、本当に“アルス”なのか?

 それとも――封印されるべき“オレ”なのか?)


混乱は深まるばかりだった。


その後、母によって僕の近くに付き添う人員が追加された。

マリーヌを含む獣人メイド三名、そして護衛の騎士二名。

5歳児にしては異例の厚遇だろう。


しかし夜になった時、結局眠れる気はしなかった。


ベッドに横になり、天井を見つめながら考えてしまう。


(本当に僕は“王家殺し”なんて人物だったのか?)


(僕は、愛を求めたらいけない存在なのか?)


(アルスとしての人生まで奪われるのか?)


思考は負の方向に落ち続けていく――その瞬間。


『アルス』


頭の中に声が響いた。


前世の記憶を呼ぶような低く深い声。

しかし昼間のローブの男とは違う。


『聞こえるか、アルス。お前は間違った道を歩こうとしている』


突然の声に身体が跳ね上がる。


(だ、誰だ……!)


『俺は――“お前の未来”だ』


未来……?


『このまま進めば、お前は再び大切なものを失う。愛を求めた瞬間に、破滅が訪れる』


心臓が締め付けられる。

息ができなくなるほどの重さで聞こえる声。


『運命は変わらない。愛に触れた瞬間――世界はまた血に染まる』


その瞬間、胸の奥から別の声が聞こえた。


『違うよ、アルス。信じちゃダメ。あいつは“嘘をつく”』


優しい、でも悲しげな声。

女性の声だ。


『愛を求めていい。あなたは望んでいい。あなたは――救われていい』


誰なんだ。

前世で出会った誰か?

あの黄金の光の剣を持った女性……?


頭が混乱し、視界がぐるぐると回る。


男の声が怒号のように響く。


『黙れ!こいつは愛など求めてはいけない!それが罪から逃げることだ!』


女性の声が重なる。


『逃げてない!罪と向き合うのは“愛から逃げないこと”!』


二つの声が激突するように、頭の中でぶつかり合った。


痛い。

苦しい。

叫びたいのに声が出ない。


やがて――声が止んだ。


静寂が落ち、暗闇の中にひとり取り残される。


僕は震える声で呟いた。


「僕は……どっちなんだよ……」


答えは返ってこない。


だが次の瞬間――部屋の扉がノックされた。


「アルス、起きているか?」


父の声だ。


ドアが開き、父が僕の部屋に入った。

その表情は、今まで見たことがないほど険しかった。


「ついに分かった。――アルス、お前を狙っている者の名前がな」


僕は息を呑んだ。


父は静かに告げる。


「黒いローブの男……“死霊王イスターク”だ」


その名を聞いた瞬間――

僕の胸の奥で、凍えるような嫌悪が爆ぜた。


(知っている――あいつを。

 前世のオレは……あいつと――)


思い出す寸前で、頭が痛みによって遮断された。


父は深く息を吸い、宣言する。


「明日の朝、皇帝陛下のもとへ向かう。アルス――お前もだ。これはもう、家の問題では済まない」


世界が音を立てて動き始めた。


狙われた5歳の公爵家嫡男。

転生者と死霊王。

封じられた罪と、許されざる愛。


運命はまだ入口に過ぎない。

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