第38話
玉座の間は、もはや「謁見の場」ではなかった。
炎が舞い、
氷が砕け、
雷光が奔り、
魔剣と鎧のぶつかる轟音が木霊する。
王家の近衛騎士は王族を守るために剣を向け、
灰色フードの一団はアルスの確保を最優先に攻め込む。
その中央に――僕たちがいた。
王族側の指揮官が怒号を飛ばす。
「滅びの子を確保しろ!死なせるな、傷つけさせるな!!
彼は“王家が支配すべき力”だ!!」
灰色フードの指揮官も叫ぶ。
「アルスは王家の道具ではない!
“真の救世主へ導く”のは我々だ!!」
(どちらも同じだ……言葉を変えてるだけで、僕を利用しようとしている)
剣を握る手に力が入る。
隣でセレナが声を張り上げた。
「アルスは“誰のものでもない”!!
自分で生きる道を選ぶんだから!!!」
灰色フードの構成員がセレナに迫った瞬間、
マリーヌが飛び込んで切り裂く。
「手を出すなァッ!!」
続けてエリシアが魔法陣を展開。
「雷鎖!」
無数の雷の鎖が床を走り、敵の動きを拘束する。
……だが“それでも止まらない”。
敵は際限なく現れる。
王城の外でも爆発音が響き、
帝都全体が戦場に変わりつつある。
ザンが前衛で怒鳴る。
「敵多すぎだッ!!
……これ、本気で帝都が落ちるぞ!!!」
ティノは風刃を放ちつつ青ざめる。
「外でも誰か戦ってる……魔力が桁違いだ!!」
ヴァイスは防御陣を張りながら歯を食いしばる。
「ここを長引かせちゃダメだ……!
アルスの奪い合いが帝都全域の戦いに発展してる!」
(僕を巡って……帝都全体が崩壊しようとしている?)
胸が締めつけられる。
その時――
皇帝が玉座から立ち上がった。
「沈めよ!!!!」
王家の紋章魔法が発動し、大地が震える。
だが灰色フードの指揮官が同時に術式を展開。
「護れ!!!!」
二つの広域魔法が衝突し、
玉座の間の天井が一部崩落する。
破片が落下した瞬間、
何かが僕の腕を掴んだ。
――第二王女ルクレツィア。
「走れ!逃げろ!!
ここにいたら殺される!!」
「でも仲間が――!」
「連れて行け!!あなた一人じゃ嫌!!!
……見捨てろなんて言えない!!!」
ルクレツィアの目は冷徹ではなかった。
恐怖と焦りに満ちていた。
(この人……冷たい“ふり”をしてるだけなんだ)
次の瞬間、灰色フード数名が殺到。
ルクレツィアは剣を構え、王族らしからぬ動きで敵を斬る。
「私は“王女だから強い”んじゃない!!
“生き残るために戦ってきた”のよ!!!」
怒りとも悲痛ともつかない叫び。
その一撃の鋭さは――歴戦のそれ。
(王女……じゃない?)
疑問を抱く暇もなかった。
セレナ、マリーヌ、エリシアが合流し、
三方向から迫る敵を押し返す。
セレナは僕の肩を掴む。
「アルス!!出口に向かうのよ!!
このままじゃ帝都ごと崩れる!!!」
マリーヌは涙をこらえながら叫ぶ。
「お願いですから……死なないでください……!!」
エリシアは鋭く分析する。
「灰色フードは“保護”。王家は“支配”。
どちらも敵。でも――今の脅威は“灰色フード”の増援。
優先すべきは突破!!」
全員の意思が一致した。
逃げるんじゃない。生き延びるための前進だ。
◆◆◆ 廊下
大理石の廊下を全員で駆け抜ける。
だが灰色フードが次々と現れ、
後方から王家側の兵士も追ってくる。
三つ巴の戦闘が廊下を破壊しながら迫る。
ザン「止まれって言っても止まんねぇだろうがァッ!!」
ティノ「わぁあああ死にたくないぃぃ!!」
ヴァイス「泣くな!走れ!!魔力弾来るぞ!!」
カイル「俺は悪くねぇぇぇ!!!」
(本当にカオスだ……!)
だけど、その混乱に紛れて追撃の手が乱れる。
“この状況を利用して突破できる”。
と、その時。
前方の大扉が爆裂魔法で破壊された。
そして――白銀の甲冑の騎士団が現れた。
その先頭に立つ人物が叫ぶ。
「退け、丸腰ども!!!!
アルス殿は我らが護る!!!!」
白髪の女騎士。
鋭い眼差し。
一糸乱れぬ構え。
(……どこかで見た……?)
ルクレツィアが息を呑む。
「……カレン!? なんでここに!?」
カレン。
帝国最強の騎士団長の名。
玉座の間より強い殺気が走る。
(この戦場に“最強”まで来た……?)
大地を割るような魔力。
灰色フードの指揮官が初めて警戒の色を見せた。
「不味い……“銀翼の災厄”が動いた……!」
(災厄? 騎士団長なのに?)
何が本当で、誰が敵で、何が正義なのか――
わからなくなる。
ただ一つだけ確かだった。
帝都は――本当に壊れ始めている。
ルクレツィアが振り返り、僕の手を握る。
「アルス。あなた“は”生きて。
誰の旗でもなく、“自分の旗”を掲げて!!」
セレナも、マリーヌも、エリシアも叫ぶ。
「あなたと一緒に生きたい!!!!」
血と魔力と願いがぶつかりあう戦場の真ん中で――
胸の奥の何かが弾けた。
眩い魔力が溢れ、
滅びの炎でも、救世の光でもない――
第三の輝き。
“意志の輝き”。
僕は剣を構え、叫んだ。
「道具でも、英雄でも、滅びでもない!!!
僕は――アルス・アドマイヤだ!!!!
僕は僕のために戦う!!!!!!」
瞬間、魔力が爆発し、衝撃波が敵も味方も押し返す。
その“隙”で全員が突破に成功。
◆◆◆
王城外へ飛び出した瞬間――
帝都全体が、もう戦場になっていた。
空は裂け、
城壁は崩れ、
巨大な召喚獣が暴れ回り、
至るところで兵士とフード勢がぶつかる。
帝都の住民も逃げ惑っている。
完全な“陥落寸前”。
ルクレツィアが息を切らしながら宣言する。
「アルス。あなたを巡る争いは止まらない。
でも……あなたがどこへ行くにしても――
私はあなたの味方よ」
セレナが続ける。
「私も。あなたの道を絶対に守る」
マリーヌも。
「生きて幸せになるって……信じてます」
エリシアも。
「あなたの選んだ道こそ、私たちが戦う理由」
ザン・ヴァイス・ティノ・カイルも肩を並べる。
仲間が、恋が、運命が、混ざり合って――
帝都の戦場で一つになる。
逃げるでもなく、支配されるでもなく、
奪われるでも奪うでもなく。
“僕が進む道”を――この瞬間から作る。
剣を握りなおし、戦場を睨む。
「行くぞ!!!!」
この戦いは、最初から世界のためじゃなかった。
守りたいもののために――
アルスとして生きるための戦いだ。




