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愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に〜  作者: 暁 龍弥
少年編

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第32話

作戦当日、夜明け前。

学園北西の森は、濃い霧に覆われていた。


僕たちは決められた3人ずつの隊列を取りながら歩く。

先頭は――マリーヌ。


彼女は鼻をひくつかせながら、迷いなく進む。


「匂い……確かにあります。生き物の匂いじゃない。

 死んだものを無理に動かしている……そんな匂いです」


背筋が寒くなる言葉だ。


ティノが肩をすくめる。


「こ、怖いことサラッと言わないで……!」


ヴァイスがティノの背を叩く。


「むしろ助かる。迷わず行ける」


ザンはいつでも斬り込めるよう前を睨みながら歩いている。


セレナとエリシアは後衛で魔力の気配を探知している。


そして僕は中央。

囮であり、鍵であり、みんなの中心に立っていた。


森の奥、木々が不自然に枯れたエリアで――

マリーヌが足を止めた。


「ここです。……ここから、匂いが“途切れます”」


匂いが途切れる。

つまり、それより先は“自然界では存在しない空間”だ。


エリシアがすっと前へ出て、地面に手を触れる。


魔力陣が浮かび上がる。

複雑な結界、偽装、対侵入、対探知――

そして最後の層に、血の術式。


「……ここ。黒フード本拠地の門」


セレナが息を呑む。


「こんな結界、完全に破壊するのは難しいわ」


「破壊じゃなくて――利用する」

ヴァイスの声は静かで確実。


「この結界は“アルスの魔力”が鍵。

 開けるのは彼しかできない」


予想はしていた。

でも、やっぱり怖さはあった。


(僕の魔力が“鍵”なら――

 僕自身が、最初から狙われていた?)


答えは、沈黙が肯定する。


僕は結界に触れた。


光でも闇でもない、無機質な魔力が反応し、

指先から波紋が広がっていく。


《反応確認――識別コード:アルス=アドマイヤ》


術式の声が、耳の内側へ響く。


《――“ようこそ帰還者。扉の奥で待つ”》


帰還者。

帰ってこい――ではなく、帰ってきた?


(認識されてる……僕自身が)


足元の地面がすうっと沈み、

光に包まれた転移階層が展開された。


ザンが叫ぶ。


「全員飛び込め!!アルスを中心に!!」


迷う時間はなかった。


僕たちは一斉に光の中へ落ちた。


◆◆◆


次の瞬間。


冷たい石造りの広間で目を開けた。


高さのある天井。

赤黒い装飾。

シャンデリアではなく、魔力の炎が浮かんでいる。


まるで古い聖堂が腐敗したような空間。


ティノが震える声で呟く。


「ここ……絶対に普通じゃない……」


マリーヌは周囲の気配を探りながら首を振った。


「生き物の匂い、ほとんどありません。

 あるのは……死の匂いだけ」


セレナが杖を強く握る。


「ここにいるのは“人間”じゃない。

 黒フードたちは人を捨てたのよ」


エリシアは冷静に歩き回り、構造を観察する。


「このダンジョンは人工物。

 霊脈を無理やり縫い合わせて作られている。

 目的は――“魂の保存”」


魂の保存。


それは、死を拒む行為だ。


ザンの拳が震える。


「死んだ奴を無理やり使役するとか……

 そんなもん、英雄でも魔王でもない。

 ただの外道だ」


その瞬間――広間の扉が音もなく閉まった。


闇の中心から現れたのは、

黒いフードを纏う影。


だが――

今までの黒フードとは違う。


どこか“懐かしい気配”がある。


その声は低く、濁り、そして歪んだ優しさを帯びていた。


「やっと来たな……アルス……」


僕は反射的に問う。


「誰だ……!お前はッ!!」


黒フードはフードの奥から、目だけを見せた。


赤く濁った、感情のない瞳。


「名乗らせるのか……

 生まれる前に世界のために死んだ“恩人”を……

 忘れたのか」


(――世界のために死んだ?)


胸が痛くなるほどの既視感。


僕の声は震えた。


「前世の僕を……知ってるのか……?」


黒フードは息を吸うように、微かに笑った。


「知っているとも。

 お前と同じ“運命”を背負った者だからな」


セレナが一歩前に出る。


「アルスに近づかないで!!」


マリーヌも身構える。


「アルス様は渡しません!!」


エリシアは杖を構え、術式を展開する。


「目的を言え。さもなくば、排除する」


黒フードは口元を吊り上げ、

軽く両手を広げた。


「目的はただ一つ。

 ――アルスを“連れ戻す”こと」


(連れ戻す……?どこへ?)


影は続けた。


「アルスは世界の“救世主”ではない。

 本来は“世界の滅びを完遂する役割”だ」


その瞬間、

広間中の魔力が暴風のように揺れた。


誰も声を出せなかった。


(僕が……滅びを……?)


影は慈しむような声で言った。


「戻ってこい、アルス。

 運命を果たすために。

 “愛されたせいで弱くなった”今のお前ではなく――

 “孤独だったお前”に」


仲間全員が武器を構えた。


ザンが吠える。


「テメェの言う“孤独”は――クソだ!!!」


セレナが叫ぶ。


「アルスはひとりじゃない!!!」


マリーヌが涙を滲ませる。


「愛は弱さじゃありません!!」


エリシアは冷徹に言い放つ。


「帰る場所は一つ。“私たちのところ”」


影の声が低く笑う。


「ならば――力で証明してみせろ」


周囲の空間が砕け、

黒い召喚陣が四方に展開された。


そこから現れたのは、

前回より遥かに巨大な、

龍の姿をした“瘴気の召喚獣”。


戦いが始まった。


(絶対に……負けない)


僕は剣を構える。


この仲間たちを失いたくない――

その想いが胸を燃やす。

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