第31話
夜の学園寮。
談話室の中央テーブルを囲むように全員が座っていた。
ザン、ヴァイス、ティノ、カイル、
セレナ、エリシア、そしてマリーヌ。
普段なら賑やかになるメンバーだが、
今日は空気が違う。
エリシアが魔導端末を開き、
黒フード召喚獣の残滓から解析した座標を表示する。
地図上の一点が赤く光っていた。
「ここ。学園の北西……魔力圧が人為的に遮断されている区域」
ヴァイスは険しい表情で腕を組む。
「……魔術的な結界というより、
“見つけられたくない場所”を徹底して隠してる」
ザンが拳を握りしめる。
「黒フードの奴ら……もうはっきり敵だな」
誰も冗談を言わない静寂。
でも、黙って終わるような僕たちではなかった。
ティノが破った。
「なぁ、やっぱり危険すぎない?
俺、前に立って戦えるほど強くないし……
逃げたくはないけど、怖いものは怖い」
素直な弱さ。
それは誰も言えなかった本音だった。
ザンは即答した。
「怖くていい。
怖さを自覚しねえで突っ込む方が死ぬ」
ヴァイスも静かに続ける。
「恐怖があるから準備する。
それが僕らの強みだろう?」
ティノの表情が少し和らいだ。
そこへカイルが立ち上がり、
拳を突き上げながら謎の演説を始める。
「よし、じゃあ俺が言う!
我々は勇者パーティーである!!
主人公を守り抜き!!
ヒロインズの心を尊重し!!
世界を救うッ!!!」
全員「関係性の優先順明らかに可笑しいだろ」
とりあえず笑いが戻った。
◆◆◆
エリシアが真剣な声で続ける。
「今回の目的は“黒フードの捕獲”じゃない。
“人質を出させないこと”。
それが最大の優先事項」
セレナが頷く。
「黒フードが狙うのは……アルスだけじゃない。
アルスの“大切な人”そのもの」
視線が一瞬僕に向けられた。
胸が苦しくなる。
(僕が油断したら、誰かが死ぬ)
だから逃げられない。
マリーヌが手を上げる。
「私、戦闘は他の皆様ほど得意じゃありません。
でも、匂いや気配の追跡はできます。
隠れている存在を見つけ出すのは得意です」
ザンが即座に言う。
「じゃあマリーヌはダンジョン案内役。
匂いや魔力の痕跡が薄くても掴めるんだろ」
ティノは風属性で罠解除や探索。
ヴァイスは支援・防御魔法の陣。
セレナは攻撃と回復の両立。
エリシアは解析と敵の術式の無効化。
そして僕は――
「……囮役、だよね」
全員が否定しなかった。
セレナは悲しそうに眉を寄せたが、
それでも消さずに言った。
「囮をさせたくない。でも……
“あなたじゃなければ黒フードは姿を見せない”。
それも事実なの」
エリシアの声も淡々と賛成した。
「アルスでなければ反応しない術式構造。
彼が中心になるしかない」
マリーヌは僕の袖をぎゅっと掴む。
「危険でも離れません。絶対です」
胸が熱くなる。
みんなが僕のために動こうとしている。
けれど――僕だけが守られるわけにはいかない。
「ありがとう。囮は僕がやる。
だけど条件がある」
全員の視線が集まる。
「僕が戦うんじゃなくて――
“僕を囮にして、みんなが倒す”。
これが作戦」
沈黙。
エリシアが先に頷いた。
「合理的。あなたは餌じゃなく、鍵になる」
セレナは眼差しを強くした。
「じゃあ、絶対守る。何があっても離さない」
マリーヌも穏やかに笑う。
「大好きな人を守れるほど強くなったって証明します」
ふいにカイルが手を挙げた。
「じゃあ俺も!!“親友ポジ”で全力サポートだ!!!
もし死にかけたら全員で怒鳴りながら助けに行くからな!!!」
ザンが小さく笑う。
「頼もしすぎて腹立つな」
ヴァイスも微笑みながら静かに言う。
「……いいパーティーだね」
◆◆◆
夜の寮のテラス。
作戦会議が終わり、それぞれ部屋に戻っていく。
しかし、三人――
セレナ、エリシア、マリーヌは残った。
僕が言葉にしなくても彼女たちは気づいていた。
「大切な作戦なのに、気になる?」
とセレナ。
「……気になる。たぶん全部」
とエリシア。
「恋も……戦いも……全部です」
とマリーヌ。
三人同時に僕を見る。
胸が締めつけられる。
「……必ず帰ってくるから」
それしか言えなかった。
セレナが一歩近づき、手を握る。
「帰ってくるんじゃなくて――
“一緒に帰る”のよ。忘れないで」
マリーヌも僕の手を重ねる。
「無事じゃなきゃ嫌です。
傷ついたまま帰ってきたら……泣きます」
エリシアは表情を変えずに言う。
「生きて帰ったら……続きをする。
“二人きりの測定”も、
……それ以外も」
心臓が跳ねた。
三人はそれ以上何も言わず、
背を向けてそれぞれの部屋へ戻っていった。
残された僕は夜空を見上げる。
(守りたい。絶対に)
影は迫っている。
けれど、僕たちも前へ進んでいる。
決戦の準備は整いつつあった。




