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愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に〜  作者: 暁 龍弥
少年編

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第28話

屋敷から学園へ戻った翌日の放課後。


僕は実習棟の廊下でセレナと話していた。

彼女は柔らかく微笑んでいたけれど、

どこか控えめな空気が漂っている。


「週末は楽しめた? お家の人にも会えて」


「うん、みんな元気だった。母さんも相変わらずだし……父さんは筋肉」


「ふふ、ヴィリアンス様らしいわ」


いつものように笑う。

けれどその笑いが終わる前に、彼女の視線が落ちた。


「……マリーヌさんとは、話せた?」


呼吸が止まる。


(やっぱり気づいてたんだ)


「少しだけ。でも、昔と今の話をして……ただ、それだけだよ」


「“それだけ”なんてこと、ないでしょ?」


優しい声なのに、逃げ場がない。


セレナは深く息を吸い、

胸の奥を押し出すように静かに言った。


「アルスはね――

 わたしにとって、“戦う理由”なの」


唐突じゃない。

ずっと隠していた本音。


「だから……

 誰かに取られるのが怖くなる時があるの」


その一言が、重く沈む。


僕は答えを探す前に――

廊下の向こうから足音が近づいた。


「アルス。いた」


氷色の瞳――エリシア。


彼女は僕のすぐ横に立ち、

自然な流れで距離を詰めた。


「今日の放課後。測定、できる?」


「え、あ、うん……だけど――」


「二人きりの、約束」


セレナの表情がわずかに揺れる。


エリシアは気づいているのかいないのか、

変わらぬ無表情で続ける。


「二人のほうが、魔力の共鳴効率がいい。

 結果が欲しい。……あなたのことも」


最後の“あなたのことも”だけが

温度を持っていた。


セレナの声がすっと貼り付いた笑顔の下で震える。


「エリシアさんって……本当に研究熱心ね。

 でもアルスの時間は、彼のものよ?」


エリシアは瞬きひとつだけして返す。


「そう。でもわたしも欲しい。

 アルスとの時間が」


(ストレートすぎる……!)


セレナの微笑みがすっと消えた。


「それは――私も同じよ」


小さくて、でも強い衝突。


そこで、廊下の空気が突然ふわりと変わった。


足音も気配も消して近づく影。

メイド服の少女――マリーヌ。


「アルス様……!」


突然の呼びかけなのに、

迷いも恐れもなく僕に駆け寄った。


「今日の放課後、時間をいただけませんか?

 少しだけでいいので……!!」


セレナもエリシアも動きを止める。


三人の視線が、僕に向かって収束した。


マリーヌは勇気を振り絞った声で言う。


「わたし……アルス様と、話したいんです。

 たくさんじゃなくていい。

 ただ、少しだけでも……側にいたい」


セレナが息を呑む。


エリシアは無表情のまま、

けれど手の指先が小さく震えた。


三者三様の想い。


全部が真剣で、全部が本物。


多分、どれかだけ選べば

争わずに済むんだろう。


でも――

僕の胸は、みんなを好きだと思ってしまった。


恋としてか、仲間としてかはまだ分からない。

だけど、大切だと思ってしまった。


(失いたくない)


沈黙を破ったのは――セレナだった。


「……アルスは、優しいから。

 誰かを選んだら、誰かを傷つけると思って止まっちゃう」


痛いほど当たっている。


でも彼女は続ける。


「だから――

 “今はまだ決めなくていい”って言ってあげる」


マリーヌがはっと顔を上げる。


エリシアの目も揺れた。


セレナは静かに微笑んだ。


「その代わり、逃げないで。

 曖昧にして傷つけるのは、もっと嫌だから」


マリーヌも小さく頷く。


「わたしも……わからなくても、嬉しい言葉なら、欲しいです」


エリシアは一拍置いて、短く呟く。


「……時間を、共有するだけでもいい」


ここで、全部がぶつかった。


けれど壊れなかった。


僕は震える声で言った。


「……ありがとう。

 みんなの気持ちを、ちゃんと受け止める。

 まだ答えを出せないけど、逃げない」


三人の胸の奥が揺れた表情が、

それぞれ違うのに全部温かかった。


そこでチャイムが鳴り、授業準備が始まる。


解散の空気の中、

エリシアが立ち去り際に囁いた。


「……でもきっと、わたしは引かない」


マリーヌは照れたように笑って言う。


「争うつもりはありません。でも……負けません」


そしてセレナも、小さく微笑んで。


「アルスが好きな人と幸せになれるように――

 わたしは“わたしがいい”って思われるよう努力するわ」


誰も諦めない。

誰も憎まない。

誰も手放さない。


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