第23話
図書塔での一件と、学園長室での協議を経て迎えた翌朝。
そんな重大事件があったとは思えないほど、学園は賑やかだった。
中庭の花壇の前では、園芸部が新しい苗を植え、
廊下では部活勧誘のチラシが配られ、
食堂の前には今日の限定メニューの看板が出ている。
(……守りたいって思った理由、こういうのだったな)
なんでもない光景が、やけに温かく感じられた。
◆◆◆
1限目の「魔術理論基礎」
教室は相変わらずざわついていたが、
先生が入ってきた瞬間、一斉に静まり返る。
「はい座ってー!今日は“属性反応の連鎖暴走”について説明するぞ!」
(昨日の塔の件にタイムリーすぎるんだけど……)
隣の席のティノが、小声でぼそり。
「先生、絶対今日の授業楽しんでるだろ」
「まあ、魔術師って暴走好きなイメージあるしね」
「言ってやるなよ!だいたい合ってるけど!」
僕らの会話に、後ろからヴァイスがひょいと顔を寄せる。
「ちなみに僕は暴走させたくない派だよ。
面倒だから」
「理由そこ!?」
前の席からセレナが振り返り、囁き声で注意してくる。
「騒ぐと先生に当てられるわよ……ほら、そろそろ――」
「そこの4人!今の説明、分かっていたな?
じゃあ実演してもらおう!」
全員(来た……)
ざわっとクラスの視線が集まる。
先生はなぜか満面の笑み。
「属性を一つずつ混ぜると暴走しないって話だっただろう!
じゃあ“四人同時に違う属性”を出して、
干渉させずに球体を作ってみようか!」
無茶ぶりすぎる!!
カイルが後ろからどや顔で叫ぶ。
「いけー!アルスー!ヒーロータイムだー!」
「お前は黙ってて!」
観念して立ち上がり、みんなで前に出る。
●炎 → セレナ
●水 → ヴァイス
●風 → ティノ
●光 → 僕
さらに、ザンが手を挙げて一言。
「土が足りねぇ。俺もやる」
「なんで参加するの!?」
「暴走したらめんどくせぇからだ」
ツンデレ理論すぎる。
結局、5属性の混合球体を作ることに。
先生が喜々として魔力防護壁を張る。
「よーし、いつでも来い!」
(暴走する気前提じゃないか……)
それでも、全員が息を合わせた。
セレナが熱を抑えた炎を、
ヴァイスが湿度を保った水を、
ティノが流れを乱さない風を、
ザンが硬度の高い土を、
そして僕が干渉制御の光を。
(力をぶつけるんじゃなく、渡し合う……)
図書塔で少女に言った言葉を自分にも重ねる。
「――繋がれ」
魔力が重なり、球体が静かに現れた。
暴走しない。
揺らがない。
ただ、調和して輝いていた。
教室から拍手が湧き起こる。
先生まで感動して目を擦っている。
「うおぉぉ……!完璧だ!理論通りだ!
だが実践したのを見るのは初めてだ!!」
カイルが感極まって叫ぶ。
「これが!友情パワーだ!!」
「言い方が安い!」
めちゃくちゃになりながらも楽しかった。
大げさではなく、胸がじんわり温かい。
◆◆◆
昼休み。
五人で中庭のベンチに座って弁当を広げる。
カイルがパンを咥えながら叫んだ。
「いやー、今日の授業は最高だったな!
ついに俺たち5人の、黄金コンビって感じ?」
「コンビは2人だよ」
「じゃあ黄金ファイターズ!」
「どこから戦隊モノになったの?」
ティノが呆れつつも笑う。
セレナが、食べながら僕の方をちらり。
「どう?今日はちゃんと“楽しめてる”?」
「うん。楽しいよ。……すごく」
その答えに、セレナはふっと優しく微笑んだ。
その微笑みに気づいたクラスの女子たちが
なぜかざわざわし始めたのは気のせいじゃない。
(なんだろう……怖い予感しかしない)
ザンが低く呟く。
「安心しろ。狙われてんのはお前だ」
「やっぱり!?」
男子の視線も妙に熱い。
友情か嫉妬か、何かよくわからないけど!
けれどこういう騒がしさも悪くない。
◆◆◆
放課後。
今日は訓練も呼び出しもなく、
久しぶりに完全な自由時間だった。
仲間と別れ、廊下を歩きながら思う。
(今日みたいな時間を守れるなら……
どんな危険でも立ち向かえる気がする)
その瞬間――
視界の端で、外の掲示板が光を反射した。
風紀委員会からの注意喚起。
《最近、学園外周で“影”の目撃報告が増えています。
遅い時間の外出は控えてください》
胸が少しだけ冷える。
けれど、その冷たさは“恐怖”よりも
“現実を忘れないための印”に近かった。
事件は終わっていない。
影も、黒フードも、塔の紋章も、
まだどこかで息を潜めている。
でも――
(それでも、日々は続いていく)
明日も授業がある。
友達がいて、笑いあって、
時々怒って、時々泣いて、
普通でいられる時間がある。
それは何より守りたいもの。
そう胸の中でそっと思いながら、
僕は寮の部屋への道を歩き始めた。




