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愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に〜  作者: 暁 龍弥
少年編

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第21話

階段を上るにつれ、空気が冷たくなった。

塔の奥へ進むほど、魔力の揺らぎが濃くなる。

紫の光がゆらゆらと漂い、まるで塔そのものが息をしているようだ。


「この感じ……暴走じゃない。

 何かを“呼び込もうとしている”魔力だ」


ヴァイスの低い声に、背筋が粟立った。


「呼び込む?何をだ?」


ザンの問いに、セレナが短く答える。


「死霊系魔術なら“死者の記憶”や“魂の残滓”……

 けど、これは……もっと生々しい」


塔の最上層へ続く扉の前まで来た。

重い鉄の扉には古い紋章――翼をもつ剣が刻まれている。


初めて見るはずなのに、胸の奥がざわついた。


(……知ってる……昔……どこかで……)


目の奥が急に熱くなり、

一瞬視界が白く揺れた。


そのとき――


「アルス!大丈夫?!」


肩に触れたセレナの声で意識が戻った。

息が上がり、手が震えている。


「……ごめん。ちょっと、胸がざわついて」


ヴァイスが扉の紋章に手を当てる。


「これは千年前の記録に残る“聖戦紋”。

 古の魔法騎士団の象徴だ。

 今はもう失われたはずなのに……」


ザンが剣に手をかけた。


「千年前の騎士団の印がここにある理由は?

 まさか、黒フードのやつがその残党だってのか?」


「断定はできない。でも――」


セレナは僕を見た。


「千年前の“英雄譚”を思い出して。

 『大いなる災を払いし金髪のヴァルキリー』が

 新時代を導いたとされている、あれ」


僕は息を呑んだ。

前世の記憶の中、“ある女性”の姿がぼんやり蘇る。

名前も声も曖昧なのに、胸を締め付ける寂しさだけは鮮明。


――***、あなたには愛を知ってほしかった……


あの夢と同じ声だ。


(どうして今、思い出す……?)


恐怖ではなく、悲しみが胸を突き刺す。

セレナが小さく囁く。


「無理に思い出そうとしなくていい。ただ――

 何か繋がっているのは確かよ」


扉の向こうで、何かが動いた気配がした。


全員が即座に戦闘態勢に移る。


「来るわよ」


扉が軋みを立てながら、ゆっくりと開いた。


中は暗く、魔導灯がほとんど割れている。

床には古い書物、魔法陣の破片、封印具が散乱している。


そして――


奥の窓際に、黒フードの人物が立っていた。


顔は見えない。

フードの奥は闇のように黒い。


ただ――その身から放たれる気配は、

ぞっとするほど“生”と“死”が混ざっていた。


セレナが呟く。


「……生きているのに、死んでいる匂い……?」


マリーヌが言った言葉。


黒フードの人物は無言のままこちらを向く。


視線が合った瞬間、頭の奥が裂けるように痛んだ。


(知ってる……この気配……!)


僕の足が一瞬だけすくむ。


すぐ隣でザンが前に出た。


「アルスの方を見るな」


セレナも杖を構える。

ヴァイスは魔力解析を行いながら指示を飛ばす。


「敵意の波動!ただし“本気で戦う気”じゃない、牽制だ!」


次の瞬間――

黒フードの人物の手が動き、

床の破片が紫の刃となって飛んだ。


「散開!」


ザンが僕の肩を突き飛ばし、刃は剣で弾かれた。

金属音に似た鋭い音が響いて砕け散る。


敵はそれ以上攻めてこない。


むしろ――逃げ道を作るように後退している。


「追わせる気か……!」


黒フードは塔の窓の外――

吹き抜けになっている非常通路へ飛び降りた。


普通の高さなら死ぬ。

だが影のように落下し、無音の着地。


追える距離だ。


けれど――


「あ……あれ……?」


セレナの足がもつれた。

呼吸が乱れ、魔力が流れすぎている。


「セレナ?!」


ヴァイスがすぐ肩を支える。


「魔力反応の余波!

 室内に残った残滓を吸って魔力過多になったんだ!」


セレナの顔が苦しげにゆがむ。


視界の端で、黒フードの人物が振り返った。


――その目だけが、見えた。


青く、悲しげで、泣きそうなほど優しい目。


(どうして……どうしてそんな目で僕を見る……?)


呼ばれた気がした。


名前を。

想いを。

千年前のどこかから。


でも、声は出ない。


追わなければ――

けれど、セレナを置いて行けない。


僕は迷わず言った。


「追わない。セレナが最優先だ」


ザンは息を飲み、すぐに頷く。


「……ああ。いい判断だ」


ヴァイスも魔力を整えながら同意する。


「敵は“殺し合う気”じゃなかった。

 目的は別にある。今追うのは危険だ」


セレナは苦しげに笑った。


「……ごめん。足を引っ張った」


「違う。助けてくれたのはいつも君だろ」


その瞬間、セレナの瞳がかすかに揺れた。


塔の窓の外、黒フードはすでに闇へ消えた。


追えなかった。

でも――手掛かりは残った。


・死と生の混ざった気配

・千年前の聖戦紋

・“呼び込む術式”

・そして、あの青い目


僕の胸の奥には、恐怖よりも別の感情が残っていた。


(あの人は――僕のことを“知っていた”)


重くて、悲しいほどの確信。


ヴァイスが静かに言う。


「今日はここまでだ。

 でも確実に核心へ近づいている」


ザンが剣を収める。


「次は逃がさねぇ。必ず捕まえる」


セレナが僕を見つめる。


「そして――あなたも、ひとりで抱え込まないで」


その言葉は、黒い塔で一番温かい光だった。


僕たちは帰路についた。

塔は後ろで静かに沈黙していた。

まるで次の幕が上がる瞬間を待つように。

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