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愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に〜  作者: 暁 龍弥
少年編

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第19話

学園長室の前に立つと、扉の向こうから静寂が流れてきた。

重厚な木の扉、金色の取手、深い紺色のカーペット。

何度見ても威圧感がある。


「入れ」


低く、それでいてよく通る声が中から響く。

教師が扉を開いた。


中に入ると、広い室内の奥でひとりの老紳士が椅子に腰掛けていた。

白髪に深い紺のローブ、鋭さと温かさを併せ持つ瞳――

ヴァレリア帝国魔導学園の長、

《アーデルバルト・レイ・ヴァレリア》学園長。


「よく来てくれた。四人とも、座りなさい」


促されて椅子に腰掛けると、

学園長は机の上の報告書を閉じて指を組んだ。


「もう知っているだろうが……昨夜、学園内に外部の者が侵入した」


セレナが静かに頷く。


「はい。マリーヌが負傷しました」


「命が助かったのは幸いだった。

 しかし“侵入者の存在”は極めて重大だ。

 ここは帝国最大の魔導学園――

 外部者が侵入できる場所ではない」


学園長の表情が一段と鋭くなる。


「通常であれば、アンデッドや死霊魔法を帯びた者は

 結界に阻まれ敷地に近づけない。

 それが侵入できたという事実は――」


ヴァイスの眼鏡が光る。


「内部からの誘導、あるいは結界の改変……ですね」


「その通りだ」


室内の空気がひりつく。


「つまり……学園内部に協力者がいる可能性がある」


ティノやカイルがここにいなくて良かったと思う。

二人ならきっと怒りを爆発させていた。


僕は深呼吸をして尋ねた。


「その……協力者って、生徒も含まれますか?」


「可能性は排除できない」


短く、しかし冷酷ではない答え。

学園長は僕の目をまっすぐ見据えた。


「アルス君。

 君が狙われている可能性は極めて高い」


胸の奥がひどく痛む。

言われなくても分かっていたはずなのに、

言葉になると重さが違った。


隣でザンが腕を組む。


「狙っているのがアルスだと分かっているなら、

 警備を増やせばいいだろう?」


「すでに増員している。だが――

 “内部に敵がいる可能性”がある以上、

 ただ増やすだけでは対策にならん」


学園長は机の抽斗から魔石の板を取り出した。

淡い光が波紋のように広がる。


「これは“転移式召喚石”。

 アルス君に何かあれば、

 君の意思で仲間を呼び寄せられる」


僕はわずかに驚いた。


「仲間……を?」


「そうだ。

 セレナ君、ヴァイス君、ザン君。

 君たちの名前を石に登録した。

 極めて信頼度の高い生徒……

 それが学園としての判断だ」


三人の表情が変わる。


ヴァイスは静かに、誇らしげに。

セレナは柔らかく微笑み。

ザンは照れをごまかすようにそっぽを向いた。


「勘違いするな。呼ばれたからって必ず助けに行くとは――」


「行くよ。絶対な」


僕が笑うと、ザンは舌打ちして黙った。

でも、その目はどこか嬉しそうだった。


学園長は続ける。


「君たち四人にはしばらく行動を共にしてもらう。

 直接守るという意味ではない。

 “仲間がいる状態の方が、アルス君は安定している”

 ――そう判断した」


セレナがちらりと僕を見た。

その目は優しいけれど、甘やかすものではない。


(守られること、頼ることを

 僕も覚えなければいけない)


学園長は最後に、少しだけ表情を緩めた。


「アルス君。

 君は今、大きな分岐点にいる。

 何もかもを抱え込もうとすれば、

 いずれ君は壊れてしまう」


止めようとしても、声が震えていた。


「でも僕は……もう誰も……」


「その想いの強さは否定しない。

 だが――忘れてはならない」


学園長の声は静かに、深く響いた。


「“守る者”にも、守られる権利がある」


胸の奥の何かが崩れたような気がした。

息を吸うと、涙が出そうだった。


その時――


学園長室の扉が、激しい勢いでノックされた。


「失礼します!緊急事態です!!」


教師が駆け込んでくる。

全員が立ち上がった。


「何があった?」


学園長の声が鋭く響く。


「学園内の図書塔で……魔力反応の暴走が発生!!

 生徒数名が閉じ込められています!!」


空気が一変する。


ヴァイスが息を呑む。


「図書塔は……死霊系研究資料が保管されている区画だ……」


セレナが僕の手を取った。


「行くわ。大丈夫、わたしたちがいる」


ザンが踏み込み、短く言う。


「ビビってねぇで走れ、アドマイヤ。行くぞ」


足が震えていない。

恐怖はあるのに、歩ける。


いや――仲間がいるから歩ける。


学園長が最後に叫ぶ。


「行け!だが“決して無茶をするな”!

 守りたいなら――生き残れ!」


その言葉を背に、僕たちは図書塔へ走り出した。


日常はまだ壊れていない。

けれど、確実に“日常の外”が近づいている。


それでもいい。


(僕はもう、ひとりじゃない)

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