第13話
学園生活が始まってから1週間。
新しい友だち、笑い合える仲間、そして時折胸に刺さる痛み。
色々あるけれど、僕は今の毎日を少しずつ好きになっていた。
そんなある日の放課後――
「アルス!今日は男子だけの“友情強化合宿”を決行する!!!」
カイルが突然腕を掴んできた。
まるで世界を救う宣言でもしたかのような顔だ。
「ごめん意味がわからない……合宿ってどこに……?」
「寮だ!! 俺たち男子寮に集まって宴会だ!!!」
「まだ未成年だよね僕たち……?」
「宴会って言っても、菓子とジュースと喋り倒すだけだから安心しろ!!」
ティノもノリノリで加勢する。
「いいじゃんいいじゃん!男だけの夜、燃えないわけがない!!」
「燃えなくていいから落ち着いて……」
止める隙もなく計画は決定し、僕はそのまま連行された。
◇ ◇ ◇
男子寮・談話室。
カイルの寮部屋が広いため、そこで開催されることになった。
すでに部屋のテーブルには大量のお菓子とジュースが積み上がっている。
「準備完璧!!我ながら天才!!」
「これは天才というより買いすぎでは……」
「何も問題ねぇ。残ったら明日も食うだけ。」
ティノが勢いよく座布団に寝転がりながら叫ぶ。
「よーし!!!本日の主役はアルスだ!!!」
「え?!僕!?」
カイルが満面の笑みで言い放つ。
「当然だろ!アルスが来てから毎日楽しくなったんだからな!!」
「おまえのおかげでクラスの空気良くなったぞ!!」
「まじで!俺も感謝してる!」
勢いよく褒められるのは照れくさすぎる。
でも胸の奥がじんわり温かい。
「ありがとう……でも、僕はみんなが優しいからだよ」
「そこが良いんだよ〜〜〜〜〜!!!!」
カイルが抱きついてきて、ティノが負けじと乱入し、僕はなすすべなく押し潰された。
「重い重い重い!!」
「友情の重みだ!!!!」
そんなバカ騒ぎが続いていた時だった。
ドアがノックされる。
(誰だろう。この大騒ぎ聞こえてたかな……)
扉を開けると、無表情のヴァイスが立っていた。
「……うるさい」
たった一言。
だけど帰る気配がない。
カイルがにやぁぁっと笑った。
「ヴァイス!!!来ると思ってたぜ!!!!!」
「来るとは言ってない」
「お前、声は冷たいけどちゃんと部屋に来てるからな!?入れよ!!」
断る隙を与えず引きずり込み、ヴァイスはジュースを渡され座布団に座らされる。
顔も声も冷静なのに、怒ってもいない。
よく見るとほんの少し、興味はあるのかもしれない。
ティノが言う。
「アルス、じゃあ今日は“男子4人の秘密基地会”だな!」
「名前変わってるんだけど……」
「細かいことは気にすんな!!」
もうカオスだ。
でも、心地いいカオスだった。
◇ ◇ ◇
お菓子を食べ、くだらない話で盛り上がっていく。
「先生の口癖ってさ、授業中は“えー”ばっか言ってない?」
「わかる!!魔法薬学の先生とか“えー”しか言ってない!!」
「ティノの寝癖、鳥の巣みたいになってた話していい?」
「やめろぉぉぉぉぉ!!」
「カイルは毎回魔法撃つと叫ぶのどうにかならないの?」
「どうにもならん!!」
「ヴァイスはパンに何つけるのが好き?」
「はちみつ」
「可愛いかよ!!」
笑いすぎて腹が痛い。
ただそれだけの時間。
だけど、失いたくない時間。
ふと、ティノが真面目な声を出した。
「さ、次は本題だ」
カイルも神妙な顔を作る。
「そうだ、本題だ」
(え、まだ本題じゃなかったの!?)
ヴァイスまでもグラスを置き、小さく頷いた。
「俺たちは――アルスの“秘密を探る会”をここに開催する」
「ちょっと待ってなんでそうなるの!?」
カイルが言う。
「お前ってさ、強いのに偉そうにしないし、優しいし、なんていうか……謎多いんだよ」
ティノも頷く。
「俺たちは友だちなんだから、アルスの“悩み”とか“望み”とか、そういうの知りたい」
ヴァイスも静かに言った。
「深く踏み込むつもりはない。ただ――孤独なら助ける。
困っているなら手を貸す。それが“友”というものだろう」
胸の奥が詰まって苦しくなる。
(友達……僕は、もう手にしてるんだ)
嬉しくて、泣きたくて、でも素直に言葉にできなくて。
それでも、ちゃんと伝えなければと思った。
「……ありがとう。みんな。
僕は――みんなと一緒に笑ってる時間が本当に楽しい。
それが今の本音だよ」
沈黙。
だけど温かい沈黙。
次の瞬間、カイルが叫んだ。
「うおおおおお!!感動したぁぁぁああ!!!!!」
ティノも全力で感情を振り回す。
「泣くな俺の瞳孔!!渇け俺の涙腺!!!」
ヴァイスはジュースを飲みながら小さく呟いた。
「……悪くない夜だ」
騒ぎ、泣き、笑い、全員が床に倒れ込むまで喋った。
◇ ◇ ◇
夜が明ける頃――
僕たちは眠い目をこすりながら寮の玄関まで出た。
「今日は最高だったな!」
「またやろうな絶対!!」
「次は焼き肉もあるとなお良い」
笑いながらそれぞれの道へ向かった。
……その時。
「アルス」
帰ろうとした僕を呼び止めたのはヴァイスだった。
「君の魔力の奥に――凄まじい“何か”がある。
だけど、今日わかったことがある」
隠そうとしても、息を呑んだのが自分でもわかる。
ヴァイスは言った。
「君が望む限り、それは“力”になりうる。
でも……望まないなら“呪い”だ」
その言葉は鋭かったが、優しさを含んでいた。
「僕たちは――どんな時も君の側にいる」
そう言って歩き去る。
胸の苦しさと嬉しさの両方が波のように押し寄せた。
今日はただの男子会。
くだらなくて、楽しくて、泣ける夜。
でも確かに――
“仲間”というものが生まれた日だった。




