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愛を求めてどこまでも〜男はどこまでも行く。あの言葉を胸に〜  作者: 暁 龍弥
少年編

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第12話

学園生活にも慣れ始めた4日目。

昼休みの鐘が鳴ると同時に、僕たちはいつものように食堂へ向かった。


今日は人数が多い。

カイル、セレナ、ティノ、そして控えめに距離を保ちながらヴァイスも同行している。


「カイル、今日の新作パンこそ争奪戦だからな!」

「望むところだ!!何が何でも勝ち取ってみせる!!」


食堂は今日も賑やかだった。

僕たちは何とか四人分のパンとスープを確保し、席へ運ぶ。


この日常に慣れてきたことが、少し誇らしかった。


「アルス、スープ熱いから気を付けて」

「ありがと、セレナ」


「アルス、パンとスープ合うぞこれ!!」

「食べる前に教えてくれ!」


笑いながら昼食が進んでいく。

ヴァイスでさえ、無表情のままパンを口に運びながらポツリと言った。


「……悪くない味」


周囲はその一言に過剰なほど反応する。


「ヴァイスが褒めた!?珍しい!!」

「逆に怖いんだけど!?」


ティノが豪快に笑う。


「すげぇなアルス!お前と飯食うとみんな楽しそうだ!」


「えっ、僕のおかげじゃないと思うけど……」


「いやお前のおかげだ!!絶対にだ!!」


笑い声はさらに広がり、昼休みの空気は最高に明るかった。


――その時だった。


「……楽しそうだな」


背後から低い声が響いた。


空気が一瞬で静かになった。


振り返ると、ザンが立っていた。

昨日も今日も見かけてはいたが、こうして真正面から話しかけられるのは初めてだ。


ザンの視線は僕の持つパンやスープではなく――

周囲の笑顔に向けられているようだった。


「アドマイヤ。ずいぶんと“友だち”が多くていいな」


言葉の端には明確な棘。

カイルが眉をひそめる。


「嫌味かよザン。別に誰が誰と仲良くしてもいいだろ」


ザンはカイルを一瞥し、淡々と言う。


「仲良くするのは構わないさ。ただ――」


視線が僕へ向く。


「“特別扱いされてる奴”の周りに集まる人間が、どれだけ本物かって話だ」


胸の奥が一瞬沈む。


直接的な悪口ではない。

でも核心を刺すような言い方だった。


ティノが立ち上がり、食堂の椅子がカタンと鳴った。


「おいザン。アルスはそういう態度とってねーぞ。

 周りが勝手に持ち上げてるだけで、本人は普通になりたがってる」


ザンはティノに興味なさそうに肩をすくめた。


「普通になりたい?そりゃ立派な望みだ。だけど――」


視線が僕に突き刺さる。


「“普通”になったことがない奴が望んでも、結局無理だ」


喉が詰まるような感覚。

図星だった。


僕は普通になりたいと願っているけど、

生まれてからずっと“特別扱い”される環境にいる。

逃げようとしても逃げられない現実。


セレナが立ち上がった。


「ザン。あなたが言っていることは正しいわ――“半分だけ”」


「……?」


「アルスは普通になったことがない。だから普通になりたいと思うの。

 その気持ちを否定するのは、普通に生きている人側の傲慢よ」


ザンは目を細めた。

けれど怒りというより、言い返す言葉を探しているような雰囲気。


それでも負けじと言い放つ。


「……理屈じゃない。俺は“結果”を見る。

 特別扱いされてる奴が羨ましいのは事実だ」


胸の奥が痛い。

ザンの気持ちが理解できてしまうから。


羨望は時に憎悪へ変わる。

僕に向けられる敵意はたぶんその産物だ。


だから――


「ザン」


僕は立ち上がり、彼を真っ直ぐ見た。


「僕がみんなと仲良くしてるのは、家柄のせいじゃないよ。

 僕が“そうなりたい”と思ってるからだよ」


ザンは目を見開いた。

僕の言葉が予想外だったようだ。


「僕は――“普通の友だち”がほしい。

 特別扱いも、特別視もいらない。

 一緒に笑って、一緒に怒って……そんな関係がほしい」


沈黙。


それを破ったのはザンだった。


「……そういう理想を言えるのは、特別な立場の奴だけだ。

 だが――」


ほんの少しだけ口元が緩んだ。


「だからこそ、腹が立つし……羨ましい」


その言葉を最後にザンは背を向けて歩き去った。


挑発でも、罵倒でもない。

それは、気持ちの片鱗だった。


食堂にゆっくりと活気が戻っていく。


カイルが深く息を吐く。


「はぁ〜〜〜〜……緊張した!!」


ティノが笑う。


「ザンはあれでも優しい方なんだぞ!あれで殴らなかったの奇跡!!」


「どんな判断基準!?」


ヴァイスが静かに言う。


「ザンは“本物か偽物か”を見ているだけ。

 ただ……方法は上手くない」


セレナは僕を見た。


「あなた、よく言ったわ」


僕は照れくさく笑った。


「正直言うと、ちょっと怖かったよ。でも……言ってよかった」


胸の奥の重さが少しだけ軽くなった。


ザンはまだ敵かもしれない。

でも――敵のまま終われない気がした。


昼休みの終わりの鐘が鳴り、僕たちは席を立つ。


日常は続く。

けれど、今日少しだけ人間関係の形が変わった。


それは悪い変化じゃない。


火花が散ったなら――

いつか焔にも、灯火にも変わるかもしれない。

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