表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

正義の名のもとに

作者: 冬桜

 バタン

 冷蔵庫を閉める音だ。しかし、必要以上に大きい音であったため、冷蔵庫の前に立つ人物を見た。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 何か聞こえてくるけど、言葉になってない。あと、結構怖い。

 放って置く訳にもいかないので、我が家の姉に声をかける。

「どうしたん?」

 声は聞こえてるだろうに、こっちを見向きもしない。

 なるほど、なるほど。放って置いたらいいのかと考えを改めようとした。けれど、改めてはいけなかったらしい。当事者だからだ。

「冷蔵庫の中にデザートがあったでしょ?」

 ギクッ。

 実際には、体と思考が止まっただけだろうに、不必要な擬態音が聞こえた。

「楽しみに、してたんだけど?」

 幽霊やら幽鬼へのジョブチェンジを勧めたくなるほど、その目は狂気に満ちていた。

「い、いや、それは母さんが・・・・姉ちゃんを、その」

 自分でも何を言ってるのか分からない。まるで、母さんが姉ちゃんを食べたように聞こえるじゃないか。

「そう・・・・母さんがいいって言ったの・・・」

 必死の弁解は一応聞き入れてくれたらしい。嫌な汗がとめどなく流れてく。雰囲気は和らいだように思えたが、目が変わってない。

「食べた事にはかわりないよね」

 フフッ。怪しい笑みとともに声をかけられる。

「さあ、おとなしく財布を渡しなさい。抵抗しない方が、痛い思いはしなくてすむから」

「い、嫌だ!!値段分は払うから金額をいってください!!」

「ダメダメ。世の中慰謝料ってもんがあんのよ。きっちり払ってもらうから。さあ、おとなしく渡せ!!」

 いつの間に目の前にいたのか。叫びと同時に上段を狙う蹴りが放たれる。

「ーーーーっ」

 顔の横を通り過ぎる。相当、危なかった。この凶暴な姉は蹴りが異様にはやい。このままでは、心身ともにKO負けしてしまう。

 次はまわし蹴り。わき腹を狙うその蹴りを腕を出してガードする。

 とにかく母さんがくるまで持ちこたえるか、何か打開策を考えないと。非がこちらにあるとしても、あまりにも残酷な仕打ちを受けてしまう。

 腹をまっすぐに狙う蹴り。同じく腕によりガードする。威力自体は弱かった。そう思った瞬間、足を思いっきり蹴られた。

ガッ

 痛い。ああ、慰謝料もらうのはこっちじゃないのかな。

「正義は我にありってね。しばらく動けないんじゃない?」

 その通りです。姉ちゃんから逃げるのは無理だと思います。

「金額言ってくれたら渡すからっ。どうかお見逃しください!!」

 一拍。

「へぇー。そーーーんなに今日は財布が重いんだ」

 あの笑みを満たしているのは狂気か狂喜か。どちらにせよ、運命は残酷だ。

「分かったなら開放してくれよ。いくら悪いのがこっちだからって、やっていいことと悪いことがあると思います!!」

 ううっ。

 非難しているつもりが意見しているような口調になってしまった。絶体絶命だ。

 間違いなく向こうが悪なのに・・・それを正す人物が不足している。

 ・・・

 そう、今じゃこっちが被害者なんだ。

「弱いものいじめなんか意味ないだろ?弱者だから搾取するのは間違ってるって」

「まあね。あまりいい事じゃないとは思う」

 あまりじゃないだろっ。心の中で叫ぶにとどめておく。しかし、少しは譲歩してくれるかもしれない。

「暴力で人を脅すなんて正義なはずがない!!」

 さあ、少しは良心が残っているといいのだけど。

「んーーー。これじゃ、こっちが悪者みたいだもんね」

 よしっ。

「けど、正義なんて人によって違って当然じゃない。だから、今はあたしが正義」

 満面の笑みとともに最後の蹴りが放たれる。

 それを見ながら思った。

 世の中って理不尽だ。


 数分後、床に倒れ伏しているのを見て、母さんは「あら」と首を傾げていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ