『黒猫事件簿① スカートを履いた男とお見合いした女の末路にゃのだ』
これは 黒猫事件簿シリーズ の第1話です。
毎回1話完結の短編で、婚活の闇をブラックユーモアたっぷりに描いていきます。
今回のタイトルは:
『黒猫事件簿① スカートを履いた男とお見合いした女の末路にゃのだ』
どこから読んでも楽しめるシリーズになっていますので、気軽にお付き合いください
俺は黒猫。
婚活サイトのマスコットとして転生させられた、不吉の象徴だ。
今日も応接室の隅っこで毛繕いしながら、人間どもの茶番を見守っている。
さて、今日のお見合い相手は──
37歳、土木関係の会社に勤める男性。年収は460万円。
ガッチリとした体型に、力仕事で鍛えられた手指。
鼻の下には少しワイルドな髭が漂い、声も低くて迫力十分。
対するは25歳の女性。
プロフィールには「男性らしい人、ワイルド系が好きです」と書かれていた。
可愛らしい顔立ちで、大人しそうな雰囲気だ。
──どう考えても、条件はぴったり。
俺は毛を舐めながら思った。
(……今日は案外、成婚コースかもしれないにゃ)
だが、その予感は数分後に裏切られる。
応接室の扉が軽やかに開いた瞬間──
ケホッ、ケホッ……思わず毛玉を吐いた。
「嘘だろ……」
そこに現れたのは、花柄のロングスカートを履いた男。
そう、彼だった。
「まじか……黒猫に転生する前の俺でも、
そんな格好しなかったぞ」
俺は威嚇した。
シャーッ!!
女性はぽかんと口を開け、担当カウンセラーは深いため息をついた。
「……またですか」
冷静な口調だった。
どうやら“常習犯”らしい。
「い、いや。僕は……美しいものが好きなんです」
男は胸を張って言い切った。
「実の妹よりも、美しくありたい。
そういう信念が、この姿なんです」
(いや、いや、違うだろ!!)
俺は全力でツッコんだ。
ワイルド系どころか、
ただの迷走コスプレおじさんじゃないか。
女性の表情は凍りついた。
沈黙が数秒、流れる。
──そして、崩れた。
「……ごめんなさい、無理ですっ!」
椅子から立ち上がった彼女は、
ハンカチで顔を覆い、大泣きした。
そこに残されたのは、取り残された男と、
呆れるカウンセラーと、ため息をつく黒猫だけ。
(……ああ、やっぱり。婚活ってのは、希望より涙の方が多いもんなんだにゃ。今日もまた、黒猫事件簿に一件追加だにゃ。)
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
✨
いやぁ……婚活の現場って、本当に予想外すぎるんですよ。
スカート男さんには信念があったようですが……女性からしたらただの恐怖体験でしたね。
黒猫としては、また一つ「事件簿」に記録されたわけです。
婚活の場は愛よりも涙、理想よりも現実が勝つ──
そんな姿を今日も見届けました。
黒猫事件簿①「スカートを履いた男とお見合いした女の末路にゃのだ」
これにて、閉廷にゃ。
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