9/75
無言の来訪者ーその謎と詩
風が強くなった夜、庭の中心に影が現れた。
それは、形を持たないようで、確かにそこにいた。
誰も声をかけなかった。
誰も名前を知らなかった。
ただ、風がその存在を包み、灯の残響が揺れた。
兎子は、そっと歌った。
その歌に、来訪者は微かに頷いたように見えた。
それは、言葉ではない応答だった。
それは、記憶の奥にある“共鳴”だった。
わたしは 語られなかった灯
わたしは 選ばれなかった声
風が わたしを呼んだ
灯が わたしを咲かせた
名前は いらない
言葉は いらない
ただ 共鳴があれば
ただ 風が吹けば
わたしは ここにいる
あなたが 忘れなければ
グラナータ:「この者は、わたしたちの記憶が形になったのかもしれない。あるいは、まだ語られていない未来の声だ。」
兎子:「歌に応える風があるなら、それは存在しているということ。」
シルバーフォックス:「古代文字にも、語られぬ者の記録がある。風は、それを知っている。」