8/75
風の記憶
風が吹いていた。
それは、ただの風ではなかった。
灯の誓いが、桜の岸辺で芽吹き、風となって広がった。
兎子は、その風の中にいた。
彼女の歌は、風に溶け、記憶となってささやいていた。
「わたしは、灯だった。
あなたは、風だった。」
グラナータは、風の庭を歩いていた。
風が語る声は、過去の選択だった。
それは、ダリアの声でもあり、彼自身の声でもあった。
シルバーフォックスは、風に古代文字を見た。
風が運ぶ記憶は、言葉にならないものだった。
それは、詩であり、旋律であり、沈黙だった。
そして、無言の来訪者が現れた。
その存在は、言葉を持たず、ただ風と共鳴していた。
乗組員たちは、その共鳴に耳を澄ませた。
「この風は、わたしの記憶。
この風は、わたしの選択。
この風は、わたしの存在。」
風が庭を包み、灯の残響が響いた。
それは、過去を赦し、未来を選ぶための風だった。
そして、船団は知った。
風は、記憶を運ぶだけでなく、存在を繋ぐものだった。
この庭は、風の記憶。
この庭は、わたしたちの共鳴。