灯の誓い
“海図なき海”を越えた船団は、静かな入り江に辿り着いた。
そこは、風が優しく、星が低く、波が記憶のように穏やかな場所だった。
グラナータは、船首に立ち、仲間たちに語りかけた。
その声は、風に乗って、灯のように揺れていた。
「我々は、失ったものを抱いている。
それは、痛みであり、誇りであり、灯だ。」
「この海が何を奪おうとも、
我々は、記憶を灯す者だ。」
船団の仲間たちは、それぞれの“灯”を手にしていた。
兎子は、星の歌を灯に込めた。
シルバーフォックスは、古代文字を刻んだ灯を掲げた。
他の乗組員たちも、失った者の名を灯に託した。
そして、夜が訪れた。
月が海を照らし、灯が波に浮かんだ。
それは、儀式だった。
それは、誓いだった。
「この灯は、わたしの記憶。
この灯は、わたしの選択。
この灯は、わたしの未来。」
一つひとつの灯が、海に流れていく。
波はそれを優しく受け止め、星のように輝かせた。
グラナータは、最後の灯を手にしていた。
それは、ダリアの名を刻んだ灯だった。
「あなたは、わたしの航海の始まり。
そして、わたしの灯。」
彼はその灯を海に捧げた。
その瞬間、星の歌が響いた。
兎子が歌い、風が応え、海が共鳴した。
灯は、ただの光ではなかった。
それは、記憶の共鳴。
それは、魂の航路。
船団は、灯の誓いを胸に、再び帆を上げた。
その航海は、過去を抱き、未来を選ぶ旅。
そして、誰もが知っていた。
この誓いは、終わりではなく、始まりだった。