航海日誌 — 出港記録「夜の庭より、風の境界へ」
記録者:グラナータ
日付:記憶の暦・夢の満潮の夜
位置:夜の庭・夢の潮の入り江 → 風の境界
天候:潮満ち、風の予兆、灯の震え
記録:
夢の潮が満ちた夜、
わたしたちは「夜の庭」を離れる決意をした。
灯の残響が静かに震え、
沈黙の泉が、最後の祈りを水面に描いた。
ヴィオーラは、舟の舳先に立ち、
「風はまだ見えないけれど、声は届いている」と言った。
彼女のまなざしは、夜の庭の奥ではなく、
その外にある、まだ名もない風の領域を見ていた。
兎子は、砂に最後の詩を書いた。
それは、舟が動き出すと同時に潮に消えた。
「詩は残らなくても、響きは残る」と彼女は微笑んだ。
ノクスは、航路の震えを記録し、
リュミエールは、灯を舟に移し、
フォスは、風の予兆を音に変えていた。
舟は、夢の潮に乗って静かに動き出した。
夜の庭は、後方に沈み、
前方には、まだ誰も記録していない「風の境界」が広がっていた。
詩的断章:
夜の庭を離れ
夢の潮に乗りて
灯は舟となり
風の予兆を抱き
声なき航路へと進む
備考:
・出港時、灯の震えが強くなった。
・風の境界は、まだ視覚的には捉えられていない。
・次の記録:「風の境界」の初接触、または「風の声の採集」。
儀礼歌《風渡りの灯》
形式:五節構成+終章(風の呼び)
歌い手:ヴィオーラ(主旋律)+兎子(囁き)+フォス(低音)+リュミエール(光の音)+ノクス(沈黙の拍)
第一節:灯の震え
灯よ、震えよ
根より芽吹く声
沈黙の奥に
まだ語られぬ祈り
わたしたちは
その震えを舟に乗せ
夜の庭を離れる
第二節:夢の潮
夢よ、揺れよ
潮の満ちる夜
砂に描かれし詩は
波に消えても残る
わたしたちは
その夢を帆にして
風の境界を目指す
第三節:風の予兆
風よ、目覚めよ
まだ名もなき空へ
声なき声を
灯とともに運べ
わたしたちは
その予兆を聴き
境界の震えを待つ
第四節:記憶の残響
記憶よ、響け
灯の残響室にて
語られたものも
語られなかったものも
わたしたちは
その残響を編み
航路の地図とする
第五節:誓いの声
声よ、結ばれよ
灯と風と夢と記憶
すべてを抱いて
舟は進む
わたしたちは
この夜に誓う
風の名を呼び、灯を守ることを
終章:風の呼び(囁き)
(囁き)
ふう…ふう…
ふう…ふう…
風よ、来たれ
灯を抱きて
声を運べ