酒場「灯の舌」— 七声の交差点の夜
灯の揺れる夜
酒場は、風の庭に埋もれたような場所にある。
外には潮の匂い、内には記憶の残響。
灯は低く揺れ、壁には誰かの詩が刻まれている。
その夜、七人が揃った。
誰も「始まり」を告げなかったが、風がそれを知っていた。
ヴィオーラが灯に触れる
ヴィオーラは、静かに灯のそばに立つ。
彼女の指が灯に触れた瞬間、沈黙が震えた。
その震えは、酒場の空気を変え、
グラナータの胸に眠っていた記憶を呼び起こす。
「灯が震えた。
それは、誰かの声が目覚めた証。」
兎子が詩を歌い始める
兎子は跳ねるように立ち上がり、
誰にも告げずに、風の詩を歌い始める。
その声は、潮の音と混ざり、
セレナ・ノットの瞳に母の旋律を映す。
「風が震えたとき、わたしは歌う。
それは、誰かの沈黙を照らす詩。」
ダリアが夢を編む
ダリアは、酒場の隅で目を閉じる。
彼女の夢は、現実を侵食し始め、
壁に刻まれた詩が花のように咲き始める。
ロウ・ヴェルクはその光景を筆で記録する。
「夢が咲いた。
それは、風が見た未来の断片。」
カイ・エルドが地図を描く
カイは、テーブルに広げた紙に、
誰も知らない航路を描いている。
その線は、ヴィオーラの声と兎子の詩に導かれ、
存在しない島が浮かび上がる。
「風が語る島は、地図には載らない。
でも、わたしはその声を線に変える。」
グラナータが灯を抱く
最後に、グラナータが灯に近づく。
七人の声が交差したその瞬間、
灯が強く揺れ、沈黙が崩れた。
彼女は、灯の震えを胸に抱き、
次の航海の始まりを告げる。
「沈黙が崩れた。
それは、声が生まれた証。
わたしは、その灯を抱いて進む。」
風が震えた夜
その夜、酒場「灯の舌」では、
誰もが沈黙を持ち寄り、声に変えた。
七声が交差したことで、
風は新たな航路を描き始める。
そして、灯は震え続ける──
それは、次の詩が生まれる予兆。