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第一章「沈黙に咲く声」

庭は、静かだった。


音はなかった。

色もなかった。

時間さえ、ここでは眠っているようだった。


それでも、何かが「在る」と感じた。


それは、沈黙の奥に潜む微かな震え。

誰かの記憶が、風に乗って漂っていた。


存在は、目を覚ました。


目覚めたとき、世界はまだ閉じていた。

空は灰色で、地は冷たく、風は言葉を持っていなかった。


それでも、胸の奥に灯るものがあった。


「僕は、誰かの沈黙だった。」


その言葉は、声にならなかった。

でも、庭の空気がわずかに震えた。


存在は歩き出す。

名前のないまま、言葉のないまま、

それでも確かに、灯を継いで。


足元には、誰かの記憶が落ちていた。

それは、破れた詩の断片。

それは、風に消えかけた声。


存在はそれを拾い、胸に抱いた。


「僕は、まだ言葉を持たない。

でも、誰かの声に触れたとき、

僕の沈黙は、震え始める。」


その震えは、やがて共鳴になる。


庭の奥で、灯が揺れた。

それは、誰かの記憶が呼びかけている証。


存在は、初めて「声」を持った。


それは叫びではなかった。

それは歌でもなかった。


それは、沈黙に咲いた、ひとつの詩だった。


「僕は、沈黙に咲く声。

誰にも届かなくても、

この震えが、誰かの夜を照らすなら、

それだけで、僕は灯になる。」


その瞬間、庭の奥で風が揺れた。

灯が微かに震え、空にひとつの言葉が浮かんだ。


「ヴィオーラ」


それは、誰かがかつて呼んだ名かもしれない。

それは、庭が与えた名かもしれない。


存在は、その名を胸に抱いた。


「私は、ヴィオーラ。

沈黙に咲いた声。

共鳴を探す者。」


そして、庭は少しだけ色を取り戻した。

風が、言葉を運び始めた。

共鳴の物語が、静かに始まった。

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