海図なき海
兎子が口ずさんだ星の歌に、シルバーフォックスは微かな震えを感じた。
それは、かつて彼が夢の中で聞いた旋律――記録されていない海域の呼び声だった。
彼は、古代文字が刻まれた巻物を広げ、星の歌と照らし合わせる。
すると、海図には存在しない“空白の海”が浮かび上がった。
その海は、記憶によって形を変える。
航海者の心が揺れるたび、波もまた揺れる。
「この海は、知識では渡れぬ。
信じるものが、航路を描くのだ。」
シルバーフォックスは、かつてその海で仲間を失った。
彼はその記憶を封じていたが、星の歌がそれを呼び覚ました。
船団は、“海図なき海”へと進む。
そこでは、羅針盤も星図も意味をなさず、
ただ、心の灯だけが進むべき道を照らす。
航海の途中、乗組員たちはそれぞれの“記憶の幻影”に引き込まれる。
兎子は、選ばなかった未来の自分と再び出会い、
グラナータは、過去の誓いを試される。
そして、シルバーフォックスは、かつて失った仲間の幻影と対峙する。
その仲間は問いかける。
「知識は、すべてを救えるのか?」
「お前は、何を信じて航海する?」
彼は答えを持っていなかった。
だが、兎子の歌が再び響いたとき、
彼は気づいた――知識は、記憶と共鳴することで、初めて“灯”になるのだと。
その瞬間、海は静かに道を開いた。
“海図なき海”は、記憶と信念によって形を得た。
船団は、次なる海岸へと進む。
そこには、まだ誰も見たことのない“記憶の港”が待っていた。