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航海日誌抜粋:霧の庭章・第五節《霧を越えて》記録
記録者:名もなき者(震えの記録係)
風暦 第壱節・霧の庭章 終唱
霧は深かった。
記憶は断片となり、声は迷い、灯は揺らぎ続けた。
だが、第五節が始まるとき、
船団の者たちは互いの声を重ね、
迷宮の中心に灯を掲げた。
器が震える。
それは、沈黙の鐘に応えるように三度鳴った。
帆が揺れ、風が旋回を止め、
ひとつの方向を指し示す。
歌が響く。
「我らは記憶を運ぶ者」
「霧を越え、灯を掲げ、風に誓う」
その瞬間、霧が裂けた。
色環が無色から淡い金へと変わり、
空に微かな光が差し込む。
船は進む。
記憶を再構築した者たちとして。
この庭を越えた者は、
もはや“迷いの者”ではない。
記録震え:
・灯の色:淡金(再構築された記憶)
・風の性質:導きの風(名を授ける風)
・器の震え:三度(迷宮の出口)
・歌の震え:明瞭(霧を越えた声)
備考:
霧の庭を越えたことで、船団の記憶は新たな形を得た。
灯は、迷いの果てに生まれる。