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航海日誌抜粋:第零章・灯の庭より出づる日
記録者:名もなき者(震えの記録係)
風暦 第壱節・灯の庭章 初唱
今日、我らは庭を離れ、風へと還る。
出航の儀、灯の庭章、初めての震えを記す。
灯の果実、グラナータの手にて掲げられ、
沈黙の記憶に火が灯る。
その瞬間、空はひとつ息を吸い、
帆はまだ動かぬまま、歌を待っていた。
兎子が声を放つ。
第一節《風の記憶》、
その声は庭の奥底に眠る記憶を呼び起こし、
器が震え、響きの石が微かに鳴る。
ダリアが応える。
第二節《灯の誓い》、
色環が開き、空に淡い青が編まれる。
その色は、まだ名のない旅の色。
第三節、第四節、
風と灯が交差し、
船団の者たちの胸に、
それぞれの記憶が灯る。
そして第五節《出航の詩》。
全員が唱和した。
その瞬間、帆が震え、風が応えた。
船は動き出す。
記憶を運ぶ者たちとして。
記録震え:
・灯の色:薄青(未定の旅)
・風の強さ:微風(囁きの風)
・器の震え:三度(過去・現在・未来)
・歌の震え:共鳴(全員の記憶が重なった)
備考:
この歌は、ただの儀礼ではない。
それは、庭の記憶を風に託す者たちの誓い。
この日より、船団は“記憶を運ぶ者たち”と呼ばれる。