航海日誌《第四頁:記憶、灯る》
記録者:グラナータ(帆の守り手)
兎子の歌が、器を震わせた。
その震えは、記録されていないはずの“声”を呼び覚ました。
灯が揺れ、風がざわめき、そして──
ひとりの名もなき者が、記憶の中から現れた。
断片記録:兎子(歌の継ぎ手)
わたしの歌が 誰かを呼んだ
それは わたしの知らない声
でも わたしの歌に 応えてくれた
その声は 庭の奥にいた
器の底にいた
灯の影にいた
わたしは その声に 旋律を編む
それは わたしの歌ではない
それは その人の記憶
──名もなき者よ
あなたの記憶を わたしに預けて
わたしは 歌う
あなたの沈黙を
断片記録:名もなき者(記憶の化身)
(記録は断片的に器に浮かび上がる)
記憶:庭の灯を守っていた者
役割:沈黙の声を封じるために、器に溶けた
記録:失われたはずの旋律が、兎子の歌により再構成される
声:
「わたしは 忘れられていた
でも あなたの歌が わたしを思い出した
わたしは 灯の奥にいた
沈黙の中で ずっと 待っていた」
「あなたの歌は わたしの記憶を 咲かせた
だから わたしは もう一度 語ることができる」
断片記録:ナギ(風の記録者)
風が 記憶を運んだ
それは 兎子の歌が 風に乗ったから
名もなき者の声は 風に震え
器に咲き
灯に宿った
わたしたちは その声を聴いた
それは 沈黙の奥にあった “忘れられた始まり”