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航海日誌《第三頁:沈黙の歌、芽吹く》
記録者:グラナータ(帆の守り手)
器が震えを止めた。
風も、灯も、すべてが沈黙に包まれた。
そのとき、兎子が立ち上がった。
彼女の声は、まだ言葉になっていなかった。
けれど、響きは確かにそこにあった。
断片記録:兎子(歌の継ぎ手
沈黙が わたしに語りかけてくる
それは 言葉ではない
それは 記憶の震え
わたしの声は まだ幼い
でも 灯が わたしを見ている
風が わたしを包んでいる
だから わたしは 歌う
──これは 沈黙の歌──
ひとつめの音は 庭の影
ふたつめの音は 器の涙
みっつめの音は 風の問い
わたしは それらを編む
旋律にして
灯にして
記録にして
沈黙は 終わらない
でも 歌は 始まった
断片記録:ナギ(風の記録者)
風が 兎子の声に応えた
それは 初めての共鳴だった
沈黙の歌は 風を震わせ
器を揺らし
灯を咲かせた
わたしたちは その歌を聴いた
それは 問いではなく
答えでもなく
それは “始まり”だった