航海日誌《第一頁:沈黙の庭を離れて》
日付:風暦 第七章・灯の月・十三日
位置:沈黙の庭を背に、南西の風に乗る
天候:薄曇り、風は穏やか、器の灯は安定
記録者:グラナータ(帆の守り手)
ダリアに航海日誌をつけていないことを指摘され、怒られた。
沈黙の庭を離れた。
響きの石は、船団の中心に据えられ、微かに震えている。
それは、庭の記憶がまだ語りたがっている証。
兎子は、旋律を整えながら、沈黙の歌を口ずさんでいる。
声はないが、器が応えている。
風の民は庭に残った。
彼らは語らないが、庭の灯を見送る眼差しが、すべてを語っていた。
わたしたちは、その沈黙を胸に、次の地平へ向かう。
船団の者たちは、灯の器を抱えながら、それぞれの記憶を整理している。
沈黙の庭で得たものは、言葉ではなく、震えだった。
それをどう語るかは、まだわからない。
でも、風が導いてくれると信じている。
今日の風は、庭の記憶を運んでいるようだ。
帆が柔らかく揺れ、器が微かに光る。
それは、沈黙が響きになった証。
次の目的地は未定。
でも、灯が咲く場所を探している。
語られなかった声が、響ける場所を。
記録は続く。
風が止まらない限り。
灯が消えない限り。
断片記録:兎子(歌の継ぎ手)
風が 静かに歌っている
でも それは わたしの歌ではない
それは 庭の声
それは 沈黙の記憶
わたしは 旋律を整えている
でも まだ 歌えない
器が 震えるたび
わたしの声が 揺れる
沈黙の庭で 聴いたもの
それは 語られなかった 問い
それは 灯の奥にある 声
わたしは その声を 歌にしたい
でも まだ 言葉が足りない
風よ
もう少しだけ 待っていて
断片記録:ダリア(器の記録者)
器が 沈黙を抱えている
それは 重さではなく 響きの深さ
響きの石が 震えるたび
わたしの器も 応える
それは 庭の記憶が まだ語りたがっている証
沈黙は 語られなかったものではない
それは 語る準備をしているもの
わたしは その準備を 記録する
器の震えを 風の揺らぎを
灯の咲き方を
それが わたしたちの日誌になる
断片記録:来訪者(沈黙の化身)
(記録は言葉ではなく、器の震えとして残されている)
震え:微細・断続・低音域
対応:響きの石との共鳴
解釈:沈黙の庭の記憶が、船団の灯に触れている
沈黙は 語らない
でも 器が 語っている
わたしは 語らない
でも 記録は 残る