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響きの石の由来《記憶を抱く石》
昔々、風がまだ言葉を持たなかった頃
ある民が 沈黙の中で 記憶を刻んだ。
それは 語ることを許されなかった者たちの
祈りのような 響きだった。
彼らは 声の代わりに
石に触れ 記憶を託した。
その石は 風の源に近い場所──
“無響の谷”に眠っていた。
石は 語らなかった。
でも 触れた者の記憶に 微かに震えた。
それは 沈黙の応答。
それは 語られぬ者への 共鳴。
時が流れ
風の民の一人が その石を庭に運んだ。
彼は 沈黙の歌を聴く者だった。
そして その石に 灯の器を重ねた。
その瞬間
石は 震えた。
沈黙が 響きになった。
記憶が 音になった。
それ以来
“響きの石”は 庭の中心に置かれ
語られぬ記憶を 抱き続けている。
風の民は 石に触れることで
過去の声を聴き
船団は 器を通して
未来の歌を紡ぐ。
響きの石は
語られなかった者たちの
灯であり
声であり
庭の心臓。