星の庭
断章Ⅰ:兎子の視点「歌の残響」
星の庭に立ったとき、風はもう歌っていなかった。
わたしの声は、風に溶けて、星になったのだと思った。
桜の記憶が、灯の誓いが、風の詩が――
すべてが、空に咲いていた。
でも、星は語らない。
星はただ、見ている。
だから、わたしは歌う。
語られなかった声のために。
無言の来訪者のために。
「あなたがいたことを、わたしは歌う。」
それだけで、星は少しだけ瞬いた。
断章Ⅱ:シルバーフォックスの視点「星の文字」
星の庭には、文字があった。
誰も読めない、誰も書いていない、なのに確かにそこにある。
古代の記憶か?
未来の予言か?
それとも、灯の残響が形になったものか?
わたしは解読しようとした。
でも、風が邪魔をした。
風は、言葉にならないものを守っていた。
無言の来訪者が、星の文字に触れた。
その瞬間、文字は消え、風になった。
わたしは理解した。
読むべきではない記憶もある。
ただ、感じるべき記憶もある。
断章Ⅲ:無言の来訪者の視点
わたしは 灯だった
語られなかった 灯だった
わたしは 風だった
選ばれなかった 風だった
わたしは 星になった
忘れられた 星になった
でも あなたが歌った
でも あなたが見つけた
だから わたしは ここにいる
だから わたしは 語らずに 語る