2. いざ原宿へ
日曜日がきた。いよいよ高倉くんと原宿に行く日だ。実は原宿に行くのは初めて。テレビや雑誌で見るだけだった、キラキラした"あの街"。若い頃原宿の美容院で働いていたママは、いろんなおしゃれが生まれる元気な町だって言ってた。
ふわっと編み込みを入れて、ハーフアップに髪をセットする。大きめの白いバレッタで、まとめた髪を飾った。洋服はどうしよう。そうだ、この前ファストファッションブランドで買ってもらったジーンズのワンピースにしよう。足元はカジュアルな銀色のサンダルにした。相棒のミラーレス一眼を首から下げる。
ママが話しかけてきた。ママも仕事に行く前だ。
「行ってらっしゃい。気を付けて、あんまり遅くならないようにね。」
「うん。行ってきます!」
高倉くんとは最寄り駅で待ち合わせにした。駅前に立っていたのは、すらりとしたシルエットの美少女――金髪ボブのウィッグをつけた高倉くんだった。
本日の高倉くんのコーデは、白のフリンジとレースがガーリーなミニワンピに、茶色のレザージャケットを羽織って、大人っぽさをプラス。足元は厚底スニーカーとブラウンの靴下で、全体のバランスがすごくいい。手にしていたヴィンテージ風のボストンバッグには、バニーホップのココとマシューのマスコットがゆらゆら揺れていた。
「おはよう。マシューのパンケーキ楽しみだね!」
高倉くんが、小さく頷いて、口元にほのかに笑みを浮かべた。いつもの高倉くんのはずなのに、かわいすぎてとっても不思議な気分だ。原宿へ行くには、池袋で山手線に乗り換えなきゃいけない。あの迷宮みたいな池袋、間違えないようにしないと。念には念を入れて、スマホで乗り換えを確認する。足を閉じて、斜めにきれいに伸ばしたまま、静かに腰かける高倉くん。仕草まで、私よりずっと女の子みたいだ。思わず、固唾を飲んで見とれてしまった。
ちょんちょんと肩を叩かれて振り向くと、高倉くんがSNSで誰かが投稿したマシューのパンケーキの写真を見せてくれた。
「かわいい!めっちゃかわいい!」
スワイプして、店内の写真も一緒にチェックした。まるで、漫画の世界に迷い込んだみたい。バニーホップの世界がよく再現されている。
うわー、テンション上がってきた!はやくマシューに会いたい!
池袋の乗り換えをスムーズに済ませ、黄緑の山手線に乗って、原宿駅についた。真新しい原宿駅の改札を抜けて、目指すはバニーホップの期間限定カフェ。初めての原宿、有名な竹下通りに足を踏み入れるのも、もちろん初めて。一応、東京には住んでるんだけど。まだ朝早いから、ぎゅうぎゅうってほどじゃないけど、竹下通りを、すでに海外からの旅行者たちが闊歩していた。
そしてお目当てのお店は、開店前だというのに、すでに行列ができている。
「並んどいてもらってええ?店の前でどうしても写真撮りたいねん。」
周りに『低い声』が悟られないように、高倉くんが小声でつぶやく。
「いいよ!」
高倉くんはさっと列から外れ、店の前のココとマシューの置物と並んで、何枚も自撮りを撮り始めた。さすがインフルエンサー、自分が一番かわいく見える角度やポーズが分かっているのだろう、自撮り棒で画角を整え、何枚も連写している。
「――ごめんな、待たせてもうて。」
「高倉くんが写真とってるの、見てておもしろかったから、全然退屈していないよ。」
「そら、せっかくマシューとココと撮んねんから、一番かわいく写っときたいって思うやん?」
「高倉くん、らしいね。」
思わず笑みがこぼれた。
開店時刻になり、第一陣で店内に案内された。
なぜ、私たちが開店前から店の列に並んだのか――理由は簡単。マシューのパンケーキは数量限定なのだ。
やっぱりこの時間に来る人は、マシューのパンケーキ狙いだ。次々と注文の声が上がる。私たちも無事注文できた。
「わああ!かわいい。」
まんまるのパンケーキの上に、ふわふわの生クリームでかたどられた、マシューがちょこんとのっている。つぶらなチョコレートの目に、いちごジャムで描かれた小さな鼻と、ほんのり困ったような口元。漫画そっくりの、少しおとぼけ顔のマシューが微笑んでいた。耳はクッキー。アイシングされている。パンケーキにはカラフルなフルーツが添えられ、全体にうっすら粉砂糖がかかっている。見た目だけで、もう幸せな気持ちになる。お皿の縁には『Bunny Hop Café』とチョコソースで描かれていた。
――パシャパシャ
家から持ってきたミラーレス一眼で、いろんな角度からパンケーキを撮っていく。
「ここに小物が置くと映えるで。」
高倉くんのアドバイス通り、カップとフォークとナイフを並べる。全体のバランスがとっても良くなった。
「さすが高倉くん!」
高倉くんもスマホでたくさん写真を撮っている。この『カワイイ』を逃すわけにいかない。
「そめやん、こっち向いて。」
「うん?」
――パシャッ
無事二人の思い出も写真に残すことができた。いつの間にか、高倉くんはいつも通りしゃべっていた。カフェに入ってテンション上がったのかな?でも、もしかすると、声を出すのが怖いというより、女の子の格好をして一人でいることが心細かったのかも知れない。
思う存分写真を撮って、ようやくパンケーキに手を伸ばす。
ひとくちめから甘い!とにかく甘い!
でも、ふわっと広がる生クリームと、ちょっと酸っぱいフルーツのバランスが絶妙で、病みつきになる味だ。マシューの顔を崩すのがほんの少し惜しかった。




