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高倉くんのカワイイを応援したい!  作者: 志熊みゅう
第一章 転校生の秘密
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7. カワイイの共犯者

 月曜日はびっくりするほど普通に始まった。早乙女さんの周りには人が集まっているし、高倉くんはいつも通り大野くんたちとお笑い談義をしている。でもよく見ると、高倉くんのバッグのマスコットがきいろのパメラに変わっていた。


 一限は町田先生の化学の授業だ。確かに彼の授業は分かりやすい。冗談が通じなそうな顔をして、少しずつシュールなことを言って笑いを誘う。ああやって生徒が眠くならないように気を使っているんだろう。


 一限が終わると、少し意を決した様子の高倉くんが話しかけてきた。


「――そめやん、今日放課後、ちょっとええ?」


 ん?!もしかして昨日のことかな?私があの美少女のことを高倉くんだって気づいたことが分かったのかな?


「わ、分かった。今日は塾ないから、放課後は暇だよ。」


「じゃあ、体育館裏で。」


 そのまま、離れていった。となりで聞いていた紬が顔を近づけてきた。


「……ちょっと、あかね!告られるんじゃない?」


「うーん、多分違う。」


「え、体育館裏だよ!?絶対そうじゃん!」


「まあ、内容はだいたい察してるから。」


「……ほーんと~?怪しい怪しい!」


 まあ確かに、親しい男子生徒が話しかけてきた、しかも放課後体育館裏で他人に聞かれたくない話がある。――普通の状況なら、私だって告白かもって思う。でも、昨日の今日だ。絶対あの"女装"の件だ。こんな大きな『彼の秘密』を紬に打ち明けるわけにはいかない。全力でごまかした。


 放課後は一人で体育館裏に行った。


「――そめやん、昨日のアレ、気づいとったやろ? 俺、女子の格好してたんやけど。」


 単刀直入に言われて少しびっくりしたけど、小さくコクコクと頷いた。


「正直どう思った?……ひいたん、ちゃう?」


 今度はぶんぶんと首を横に振った。


「かわいくてびっくりした。とっても似合っていたと思うよ。」


「マジか!?やっぱそう思う?自分でもな、結構イケてるんちゃうかなって思っててん!」


 口止めされるのかと思いきや、唐突な自画自賛。ちょっと面食らいつつも、気づけば彼のカワイイ理論を夢中で聞いていた。そしてその美意識の高さに唸った。


「――実は最近困っていることがあってな。」


「困っていること?」


「急に声変わりがきてしもて……あの格好で低い声出したら、みんなビビんねん!」


 あのときの、あの沈黙――そういうことだったんだ。バニーホップの期間限定ショップで声を出すのをためらっていた。


「ほんでな、声変わってからは女子の格好でできることも限られてきてもうてさ。カフェとかやと絶対声出さなアカンやん?それがネックでな。」


 確かになあ、気にしたことなかったけど、声が出せないのって結構不便なのかもしれない。


「まだバニーホップのイベントカフェにも行けてないんや。せっかく東京出てきたっちゅうに。」


「なら、私と行こうよ!私が代わりに声を出すよ――高倉くんの"カワイイ"を、一緒にかなえよう!」


 黒縁めがねの奥の瞳がキラキラと輝いた。


「ありがとうな!ほんなら、中間試験終わった週の日曜日でええか?」


「うん、もちろん。」


 誰にも言えない秘密を共有するみたいで、彼と"共犯者"になれたことが、なんだかくすぐったくて、うれしかった。


 それから、彼がどうして女子の服に興味を持ったのかという話を聞いた。もともとお母さんが女の子が欲しかったらしくて、小さい頃からよく女の子の格好をさせられていたそうだ。印象が強い黒縁めがねをかけているから意識しないけど、眼鏡を外せばお人形さんみたいに整った顔立ちだ。小さいときは、それは天使みたいにかわいかったんだろう。


「ちっちゃいころは姉ちゃんのおさがりばっか着とったんやけど、俺、それが普通やと思っててん。でも幼稚園の制服ってズボンやろ?んで、小学校上がってからは親に"男の子の服"着せられるようになって――ああ、やっぱ俺、"かわいいもん"が好きなんやなぁって、そんとき気づいたんよ。」


 女の子の格好していたのは、誰かに可愛く見られたいとか、そういうことじゃなくて――高倉くんが『自分らしくいたい』って思って選んだやり方なんだ。


「小さいときに女の子の服を着せられていた子って、逆に反動で男の子らしくしたがるのかと思った。逆だったんだ。」


「たぶん姉ちゃんの影響もデカいわ。今、大学生でまだ大阪おんねん。メイクは姉ちゃんから教えてもろたんや。」


 女装した高倉くんがあんな美少女だったら、高倉くんのお姉さんはきっとものすごい美人なんだろうな。


「メイク、とっても上手だったよね。だって私声聞くまで高倉くんって全然気づかなかったもん。」


 高倉くんは、少し照れくさそうに笑いながら、ポケットからスマホを取り出した。


「実はな、SNSでちょっとしたインフルエンサーやってんねん。」


 見せてもらったのは、メイクのショートムービーだった。テンポよく場面が切り替わるけど、解説が丁寧でわかりやすい。一見、自然に見えるメイクもこんなに手が込んでいるんだ。


「えっ、同じ人!?すごい……別人みたい。もちろん、もとの顔もかわいいけど!」


「化粧って、ちょっと工夫すると別人になれるやろ。だから楽しいんや。」


「このアカウント、教えてくれてありがとう!あとで自分でもチェックする!」


 メイクか――自分ではやったことないけど、おもしろそう。まるで新しい世界の入口に立ったような気がした。そしてそれは、ただの"女の子らしさ"じゃなくて、高倉くんが自分自身であるための表現なのかもしれない――そう思った。

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