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高倉くんのカワイイを応援したい!  作者: 志熊みゅう
第一章 転校生の秘密
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6. 伏し目がちな美少女

 頭は様子をみたが、大事には至らなかった。週末は、池袋の百貨店のバニーホップのポップアップショップに行くことにした。この前、高倉くんに部活の時に言われて思い出した。グッズ自体はネットでも買えるけど、なにかを買うたびにママにお願いしなきゃいけないし、実物を見ながら購入できる機会って結構貴重だ。


 そういえば中学生になってから制服以外の服を着る機会はあまりないから、私服は最低限しか持っていない。一応、繁華街に出かけるので、一番好きな花柄のワンピースを着てみた。やっぱりカワイイ。美容師のママに教えてもらったから、ヘアアレンジは得意だ。サイドに編み込みを入れて、ポニーテールにした。ちょっとしたアクセサリーも付けて準備万端だ。


 電車に揺られて、池袋に向かう。ふと斜め前、視線の先に"美少女"が座っているのに気づいた。ちょっと目があったような気がしたけど、気のせい……だよね?


 美少女は、淡いピンクの透け感のあるブラウスに、白いフレアスカートを合わせていて、とってもガーリーだ。ふわっとウェーブがかった茶色のロングヘアーがかわいい。スタイルもよくてモデルさんみたい。茶色のカゴバッグにバニーホップの主人公ピンクのうさぎ、ココがついている。――あの美少女もバニーホップが好きなんだ!


 やば、さすがに見すぎたかも。きれいな人やかわいい人って、つい目がいっちゃうよね。そっと視線をそらした。同じ池袋で降りたのに、気づけばもう姿が見えなかった。


 さてと――池袋駅は西と東を間違いやすい。スマホで場所をもう一度確認して、目的地に向かう。それにしてもターミナル駅ってなんでこんなに複雑なんだろう。アリの巣みたいに入り組んでいて、どの道がどこに通じているのか、イマイチよく分からない。


 やっと百貨店新館5階、バニーホップの期間限定ショップにたどり着いた。所狭しと陳列される、ピンクのココ、まっしろのマシュー、そしてきいろのパメラが目に飛び込んで来た。そのままショップに吸い込まれ、マスコットやらメモ帳やらを、勢いのまま、どんどんかごに放り込んでいった。


 ああ、絶対予算オーバーだ。でもでも!ココがマカロンを食べているパーカーも欲しい。ココはかわいい顔して食いしん坊なのだ。棚に手を伸ばすと、すっと伸ばされるもう一つの手に触れた。


「あ、ごめんなさい!」


 反射的に謝った。ん!?ピンクのブラウスに茶色のロングヘア。――あ、さっきの電車に乗っていた美少女だ。


「……」


 え、無視!?美人って、早乙女さんもだけど、少し同性には感じが悪いのかも。彼女は伏し目がちにその場を立ち去った。なんか今ので購買意欲がそがれてしまった。もともと予算オーバーだ。服は諦めて、マスコットと文房具だけを買おう。まあ、総じていい買い物はできたし、池袋まで出てきた甲斐はあったと思う。


 会計を済ませ、ふんふん♪と鼻歌交じりでお店をでようとすると、さっきの美少女がまだパーカーを買おうか迷っている。そんなに気になるなら、試着してみればいいのに。


「お客様、これかわいいですよね?私も自分用に買って今着ているんです~!当店の一番人気なんですよ!」


 店員さんもこれはチャンスだと思って話しかけている。――前から思っていたんだけど、店員さんが着ているものを欲しがる人って実際どのくらいいるんだろう?自分が"カワイイ"と思うから、自分が好きなデザインだから、買うんじゃないの?


「……」


 美人はまたしても無言だ。なんだか、ただ愛想が悪いというだけはないような気がした。店員さんもちょっと困った様子だ。


「悩まれるようでしたら、ご試着のご案内もできますよ。」


 意を決したように、美少女が口を開いた。


「……試着お願いします。」


 ん?その美少女から発せられたとは、とても思えない低音ボイス――そしてその声は確かに聞き覚えがあった。


 棚の影から、"彼女"を凝視した。その目元、鼻、口元のほくろ、きれいに化粧が施されているけど間違えない――高倉くんだ!


 店員さんも少し驚いた様子だったけど、試着すること自体は男性であっても女性であっても何も問題がない。そもそもパーカーだってユニセックスだし。そのまま試着室に案内されて行った。


 ――ど、どうしよう。高倉くんのとんでもない秘密を垣間見てしまった。居ても立っても居られなくて家に直行した。


 帰ってからも、なんだかソワソワして落ち着かない。ベッドの中でぐるぐる色々なことを考えた。今まで高倉くんのことを、カワイイものが好きで、お笑いが好きで、足が速くて、頭もよくて、そんな『男の子』だと思っていた。でも今日の高倉くんは、私よりはるかにかわいい『女の子』だった。


 ――高倉くんってナニモノなの?明日教室で、今度部活で、普通に話せる自信がなかった。いつも通りに接するなんて、とてもできそうにない。

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