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高倉くんのカワイイを応援したい!  作者: 志熊みゅう
最終章 やっと見つけた私の『好き』

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5. お笑いライブ

 いよいよ『深夜2時の哲学』の単独ライブの当日だ。チケットを片手に駅前で高倉くんを待つ。陰る夕日が私の頬を茜色に染めた。9月も終わりだというのに東京はまだうだるように蒸し暑い。


 今日はルーズにまとめた一本の三つ編みを右肩にたらし、飾り付きのヘアピンを花を散らすように三つ編みに飾った。洋服はこの前、校庭で話したリンクコーデ――トップスは高倉くんと色違いで買った、ふわふわピンクの半袖ニットだ。ボトムスにはトレンチ風のクリームベージュのスカートを合わせ、足元にはブラウンのローファーと白い靴下を選んだ。


「待たせてもうたな。今日、どうもメイクがいまいち決まらへんねん。」


「うふふ。今日もとってもかわいいですよ。」


 今日も高倉くんはカワイイ!ブラウンのゆるやかなウェーブのウィッグをセンターで二つに分けて、毛先までふんわりとほぐした三つ編みにしている。実はこのヘアアレンジ、私が教えてあげたんだよね。早速試してもらえたのがうれしい。


 洋服は、オフホワイトのふわふわ半袖ニットに、チェック柄ミニスカートを合わせている。足元のぽってりとした真っ赤のパンプスと頭の真っ赤なベレー帽が、コーディネート全体をキュッと引き締めるいいアクセントになっている。黒いレザーのチェーンバッグが、大人っぽさをひとさじ加えていた。


 ふと、高倉くんのバッグについたバニーホップのココと目が合った。あれ、肉まん食べてる!


「あ!ココが肉まん食べている!」


「さっすが、あかね。これ、バニーホップの新作グッズやで~。ほな、行こか。」


 電車に乗って、渋谷に向かう。電車の中では、パパから聞いた深夜2時の哲学の裏話をした。


「――あ、そうそう。深夜2時の哲学の松岡さんって、あんな支離滅裂な芸風だけど、ライブ会場で他の人の芸やお客さんの様子まで細かく把握して、裏でめっちゃ分析しているらしいよ。しかも、ああ見えて楽屋ではとっても礼儀正しくて、大人しいんだって。」


「へえ、そうなんや!もっと破天荒なタイプや思ってたわ。」


「パパに律儀にお中元とお歳暮送ってくるし。笑っちゃうよね。」


 今日も乗り換え迷宮――池袋を、くぐり抜ける。


「池袋が乗り換え迷宮やとしたら、渋谷はサグラダファミリアやで。もっとややこしいわ。」


「え、マジ?今のうちに調べとこ。」


 えっと、劇場に近い出口は……。


「そない調べんでも、出口出たらすぐやから、間違えへんで。任しときって!」


 宣言通り、高倉くんは山手線を降りるとまっすぐ最寄り出口に向かい、あっという間に劇場に連れて行ってくれた。


「すごいすごい。迷わず来れちゃったね。」


「最初っから、迷うとこなんかあらへんかったやろ?」


 劇場前には今か今かと開場を待つ熱心なファンたちの行列が出来ていた。鞄にじゃらじゃらとグッズをつけた人、髪を深夜2時の哲学の山本さんそっくりに青く染めた人もいる。熱気がこちらにも伝わってきて、自然と胸が高鳴った。


「実はね、今日ちょっと特別な席なんだ。」


 このチケット、パパがもらってきたから『関係者用』なんだよね。列には並ばず、会場スタッフにチケットを見せる。「こちら関係者席になります」と案内された席は、舞台全体がよく見える特等席だった。


「うわ、めっちゃすごいやん。」


「えへへ。関係者なんで。」


「おじさんにお礼いうといてな。」


「分かった~!」


 会場に先ほど外に並んでいた人たちも続々と入ってきた。いよいよ開演だ。


 幕が上がった瞬間、ステージいっぱいに未来都市の映像が広がった。無機質なビル群が空にそびえ立ち、冷たい光を放っている。


「え、なにこれ……プロジェクションマッピング?」


「めっちゃすごない?こんなん反則やで。」


 次の瞬間――ザザザーッ!

 ステージ上のビル群が、地響きを立てて崩れ落ちる。瓦礫が舞い、瓦解していく未来都市。舞台装置からスモークが激しく噴き出し、煙の向こうからスーツ姿のふたりが登場した。


「人類最後の笑いをお届けに参りました。深夜2時の哲学、松岡です。」


「なんかスゴそうな登場したけど、いつも通りの山本です。」


 そのまま二人は、舞台上に映し出された崩れ落ちた未来都市の中で、去年漫才賞レースで優勝したネタ、『AIニーチェ』をつかみでやって大盛り上がり。


 まるで疾走するように、畳みかけるように、ネタを繰り出していく。やっぱり本物は、熱量が桁違いだった。


 あっという間の1時間――夢中で笑い続けた。


「すごかったね~!明日大野くんに自慢しちゃお。」


「あいつ、絶対めっちゃ悔しがるって。やめたりや。」


 興奮冷めやらぬまま、会場を後にする。笑いながら前を向いている高倉くんを、私はそっと見つめた。この笑顔をずっとそばで――あなたのすぐとなりで見ていたい。


 ……そうだ、高倉くんに『好きだ』って伝えなきゃ。

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