3. 推し活進化論
部室に行くと、一年女子たちがスマホを見ながら「きゃあきゃあ」言っている。また韓流アイドルグループかな?
「先輩たち、お疲れ様です!」
いつも通り、元気よく挨拶された。
「今日の被写体モデル、誰だか知ってます?びっくりしますよ。」
他の1年女子たちも、コクコクとうなずいた。
「え、びっくりってなに?サプライズゲスト!?」
すると新部長の楠くんが部屋に入ってきた。となりにいる人物をみて確かに驚いた。――彼女の早乙女さんだ!
「みんな、今日の部活動を始める。人物撮影がテーマだ。被写体モデルは2年B組の早乙女さん。」
「ご紹介いただきました早乙女です。今日はよろしくお願いします。」
早乙女さんが天使のほほえみを浮かべた。まさか、自分が部長になってすぐ、"彼女"をモデルに呼ぶとは、いくらなんでも、公私混同がすぎるでしょ……。楠悠斗、見損なったぞ。
それでも、最初のうちは真面目に撮影しているように見えた。けれど、段々と雲行きが怪しくなってきた。
「悠斗、こんな感じでいい?」
「今のいい、ちょっと身体捻って。ああ、その笑顔!もう最高!」
「ちょっと、悠斗みんな見ているわよ。」
「問題ないよ。部活のみんな、陽菜が俺の彼女だって知っているし。あ、陽菜の髪、ここちょっと跳ねてる。」
「え、どこどこ?悠斗直して。」
楠くんが駆け寄って、指先でそっと跳ねた髪を押さえた。陽菜さんは、それをうれしそうに見上げて微笑んだ。――こうなるともう完全に二人だけの世界だ。いちゃつくなら、せめて人目のないところでやってほしい。なんかこう、目のやり場に困る。構えたカメラをそっと下ろした。
「……そういえば、あなたたちは楠ファンクラブを解散しないの?」
なぜか平然としている1年女子たちに尋ねた。
「いえ。今はカップルで推しているので、何も問題ありません。堅物な楠先輩が、あんなデレデレしちゃって!本命彼女にだけ見せるギャップが最高なんです~!もうよだれが出ます。」
「……え、そういうもん!?」
「はい!推し活って進化するんです!」
そういうと、後輩たちは、いちゃつく二人を撮影し始めた。――困ったな。こっちもついていけない。
「――高倉くん、私たちはどうしようっか?」
気まずくなって、一緒に呆気に取られている高倉くんに声をかけた。
「とりあえず、外行こか?」
外は、まだまだ蒸し暑い。校庭では、サッカー部が練習をしていた。松葉杖の和田くんがピッチの外から声を張り上げている。まるで鬼コーチだ。
「あれ?迫田、うまなっとるやん。」
「それ1年のフォワードの子だっけ?」
「そうそう。」
11番の背番号をつけた迫田くんがシュート決めた。いい攻めだったけど、わずかにゴール外れた。
「あっ、惜しい!……でも、今のすごくよかったね。」
「前よりめっちゃ前出るようになったんちゃう?」
和田くんが、迫田くんに何やら熱っぽくアドバイスをしている。フォワードは本来彼のポジション、ピッチに立てないことが、誰よりもつらいはずなのに――声を張る姿は、真剣そのもので、悔しがる素振りは一切見せなかった。
「和田くん、本当サッカー好きなんだね。」
「せやな。」
その後も高倉くんは、声を張り上げる和田くんや、走り回る1年生たちを見ていた。でも、その目はどこか冷めていて――ああ、もう彼はサッカーをやらないんだ、って分かった。彼の目は、まだグラウンドを向いていたけど、私はわざと話題を変えた。
「――そういえば、今度のお笑いライブだけど、リンクコーデにしない?」
「ええな。あの、原宿で買うたやつ、どうやろ?」
「いいね!あれ絶対、つぎ高倉くんとお出かけする時に着ようと思ってたの!」
「じゃあ、決まりや。」
そう言うと、私の髪の毛を軽く撫でた。
「どうしたの?」
「……なんでもあらへんよ。」
高倉くんは少し切なそうな顔で微笑んだ。日が暮れ始めて、少し涼しくなってきた。心地よい秋風がふわりと私たちを包み込んだ。




