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高倉くんのカワイイを応援したい!  作者: 志熊みゅう
第五章 恋愛は謎解きよりも難しい

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4. 高倉くんの魔法

 土曜日、私たちはA組の劇の練習に間に合うように、朝から写真部の部室に集まった。本当は高倉くんと楠くんだけでいいはずだけど、早乙女さんは高倉くんがメイクをするところを生で見たいと言ってやってきたし、私も野次馬として参加した。高倉くんが大きなカバンから、次々とメイク道具を取り出した。


「うわあ!いつも動画見ているけど、本物だ。」


 道具を見ながら、早乙女さんが目を輝かせた。一方の楠くんは、少し不安そう。


「コンタクト、入れたことあるん?」


 楠くんが首を横に振った。


「これ、目ぇ大きく見えるし、最初に着けてほしいねんけど、あかんかな?」


「……やってみる!」


 楠くんは何やら難しい顔をして、箱の裏側に書いてあるコンタクトの入れ方を熟読し始めた。


「ケースから出して、目ぇパチッと開けて、ピッて入れるだけやん。」


 そりゃ、慣れてる高倉くんには簡単だろうけど、初めて目に何か入れるのは抵抗あるよね。楠くんはトイレに行って、少し時間はかかったけどカラーコンタクトを付けて戻ってきた。


「多分、次はもっと手早くできると思う。」


「ほな、よかったわ!始めよか。」


 楠くんの垂れさがった前髪を高倉くんがピンでとめた。


「眉毛なあ~。ちょっと剃ってもええ?嫌やったら、コンシーラーで無理やり隠すけど。」


「今日は覚悟を決めて来たんで、剃ってください!」


「ほんまにええんやな?」


 高倉くんが、メイク箱の奥の方から新しいカミソリを出してきて、丁寧に眉毛の形を整える。眉の形を整えただけなのに、楠くんの印象がぐっと変わった。ちょっと、垢ぬけたかも。


「どや、ええ感じやろ?あと、これ元々予備用だし持ってってええで。」


 そう言ってカミソリを楠くんに渡すと、高倉くんは満足げにうなずいて、にっと笑った。


 次に顔全体に下地を塗る。さらにクッションファンデーションをパタパタと全体に満遍なく塗った。


「少し、クマあんねんな。」


 そう高倉くんは独り言をいうと、ポンポンと目の下にコンシーラーをなじませた。


「上から粉をふる。これでべたつきを抑えるんや。」


 パウダーをふわふわっと顔全体にのせると、肌の質感が変わって、楠くんがさらにカッコよくなった。


「次は眉毛や。地毛やと、かけてるとこもあるし、剃っただけやとシュっと見えへんねんな。」


 眉ペンシルとパウダーで平行に、でもキリっと見えるように少し角度をつけて眉毛を描く。――眉毛って、ほんとに描き方ひとつで印象が変わるんだなあ。


「うわあ、一個一個勉強になる!陽菜、いつも眉毛描くの難しいと思ってたの。」


 興味津々といった様子で、早乙女さんが身を乗り出した。


「これ男のメイクやから、女の子とはちょっとちゃうで。」


 笑いながら答える高倉くんの表情も生き生きしている。それから高倉くんは、引きで楠くんの顔を見ながら言った。


「次はシェイディングとハイライトや。」


 そう言って、濃い色のパウダーをブラシに取ると、鼻が高く見えるように鼻の周りに影を作り、鼻筋には明るい色のハイライトをのせた。鼻筋がすっと通って、顔全体が立体的になった。


「うわあ、魔法みたい!」


 思わず、そうつぶやいた。


「ありがと!そめやん、ほめ殺してくれてもええんやで?」


 そう得意げに笑う。高倉くんのその表情、あざといなあ。


 そしてブラウンのアイシャドウを重ね重ね塗り、瞼にグラデーションを作っていく。さらにまつ毛の際を埋めるようにアイライナーを塗る。そして女の子メイクの時より控えめだけど、目の下にもキラキラしたアイライナーで線を引き、涙袋を作った。


 ビューラーでまつ毛を上げて、マスカラベースを付ける。


「男のメイクやから、目元はこれで十分。」


 そしてチークを頬にのせ、リップライナーで唇を輪郭を変えていく。


「これが仕上げや、深みが増す。」


 そう言うと、びっくりするくらい黒いリップを取り出して、ひと塗りした。


「すごい!別人みたい。やっぱり高倉くんに頼んでよかった!」


 早乙女さんがうれしそうに笑った。実際、劇用の金髪のカツラを被った楠くんは、本物の王子様みたいだ。


「ありがとう!高倉。自分でもこんなに変われると思ってなかった。これでA組の連中を説得してみる。」


 A組の教室に行く間、楠くんと早乙女さんの関係について、少し話を聞いた。実は家が近くて、幼稚園生の頃から仲良しなんだって。だから、こんなに息が合っていたのか。夏祭りで、早乙女さんと和田くんの険悪なデートを目撃してしたせいか、少しほっとした。――ちゃんとした信頼関係って、本来こういうものだよね。


 A組の人たちは、楠くんの変身ぶりに一同驚愕していた。王子様の代役も、満場一致で楠くんで決定になった。練習間に合うといいなと思いつつ、部室に戻る。早乙女さんが私の耳元に囁きかけた。


「ねえねえ、高倉くんとあかねちゃんって付き合っているの?」


「え!?……ちがうけど。」


「でも、夏祭り一緒に来ていたよね?」


「う、うん。」


 夏祭りで高倉くんと一緒にいたのバレていたんだ。高倉くん、あの日女の子の浴衣着ていたのに。


「てっきり、あかねちゃんと高倉くん、部活も一緒で仲良さそうだから……。もしあかねちゃんが恋愛的な意味で高倉くんに興味ないなら、陽菜、狙っちゃってもいい?」


「……それは絶対だめ!」


 思わず、声に出ていた。冷静に考えると何がダメなのか自分でもよく分からない。だって高倉くんは誰のものでもない。でも胸騒ぎが止まらなった。


「うふふ。そうだよね。からかってごめん!文化祭、写真部の展示も楽しみしているね~。」


 そう言って、早乙女さんはくるりと振り返り、背中越しに手を振って去っていった。

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