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高倉くんのカワイイを応援したい!  作者: 志熊みゅう
第五章 恋愛は謎解きよりも難しい

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2. 文化祭の準備

 二学期に入って一番のビッグイベントは、もちろん文化祭だ。今日のホームルームの議題は文化祭の準備について。うちのクラスは出し物は学級委員の泉くん考案の脱出ゲームだ。


「A組は演劇よ。"現代版リトルマーメイド"だって。」


 2学期になって、席が前後になった紬が、後ろを振り向いて声をかけてきた。


「"現代版"って、どういう意味?」


「分かんない。私も噂で聞いただけだし。でもすごいよね。夏中ずっと劇の練習なんてできない。私には吹奏楽部もあるし、劇の練習までしたら絶対干からびちゃう。」


 ――団結力があるA組ならそういう出し物もできるんだろうな。文化祭の出し物の話し合いで分かったことだけど、うちのクラスはとにかく個人主義者が多い。夏に集まれそうにないうちのクラスでも、準備が間に合うって理由で、泉くんの脱出ゲームの案が通った。一見クールに見えて実は熱血な町田先生だけは、B組にも演劇をやってほしかったみたいで、ちょっと残念そうだった。


 白衣の町田先生が教室に入ってきた。騒がしかった教室が、一瞬で静まり返る。


「それでは、ホームルームを始める。今日は文化祭について。泉さん、前に。」


「はい!」


 自称ミステリーオタクの泉くんが目を輝かせている。


「すべての謎は自分が考えてきました。皆さんには、会場作りと当日のブース当番を手伝ってもらいます。」


 ――『すべての謎は自分が考えてきました。』ってゲームのラスボスしか言わないようなフレーズに思わず苦笑した。全部泉くん任せなのに、笑うのは悪いかも。


 まず教室全体を迷路にして、各ポイントごとに泉くんの考えた謎解きを置く。二者択一の問題で、間違えると即脱落だ。最後の謎だけは、パズル。正解できれば、攻略記念の賞状がもらえる。あれ?案外おもしろそう!しかも泉くんは、迷路のレイアウトまで考えていた。机と衝立を迷路みたいに並べるのか――。もしかして、これってもう前日準備だけでいいってこと?


「泉くん神~。よっ泉大明神!」


 ホームルームが終わると、紬がうれしそうに叫んだ。確かに、紬みたいに部活動が忙しい子にはありがたいよなあ。


 次の瞬間、短い休み時間だというのに、陽気でノリのいい男子グループが教室に雪崩れ込んで来た。――サッカー部の人たちだ。高倉くんを見つけると、一目散にその周りを取り囲んだ。


「高倉!頼む。俺達に力を貸してくれ。」


 引退したはずの3年生もいるのに、サッカー部のエースの和田くんがいない。


「なんの用やねん。」


 高倉くんはちょっとぶっきらぼうに答えた。正直、めんどくさそう。


「実は和田が夏の練習中に右足を骨折してしまって、秋季大会の出場が絶望的なんだ。」


 和田くんは、確かフォワード。攻めの要がいなくなるのはさぞ大変だろう。


「高倉って、ミッドだったけどフォワードもいけるだろ?頼む、今回だけ……今回だけ、俺たちに力を貸してくれ。」


 ミッドってミッドフィールダーのことだっけ?攻めと守りをつなぐ司令塔とか聞いたことがある。なんか難しそうなポジションだな。気づけば、サッカー部員たちが教室の床に土下座していた。え、先輩まで!?


「すんませんけど……土下座はやめてもらえますか。和田に色々言われてたとき、正直、誰も庇ってくれへんかったですよね。そやのに、今さら頼まれても……都合よすぎますわ。今回の件、お断りさせてもらいます。」


 高倉くんの意思は固そうだった。


 放課後は、写真部も文化祭に向けて準備だ。うちの部、渡邊先輩のようなガチ勢もいるけど、基本はゆるい。今回の展示も、特にテーマもなければ、決まりもない。展示する写真はスマホの写真だってOKだ。高倉くんはスマホの写真を展示するみたい。


「高倉くん、よかったの?サッカー部の件。」


「ああ。あいつ、自分で頭下げにも来いへんのに、なんで俺が出なあかんねん。」


「そういえば……高倉くん、サッカー部で何があったの?」


「和田のやつ、リレーで俺に負けたんが悔しかったんか、運動会以来、なんやかんやつっかかってきててん。」


 ――ああ、そうだ。運動会のリレーで、高倉くんが和田くん抜かして逆転して、B組が勝ったんだっけ。


「それ以来、人の持ちもんに気持ち悪いとか、男らしくないとか、よう言うてくるねん。」


「……え!ひどい。」


「女の子の格好するために脚の毛剃ってるんも、"キモい"って笑われてさ……周りも誰も止めん。サッカーも、もともと親父に言われて始めたやつで、正直あんま好きちゃうねん。せやのに、好きでもないこと続けて、好きなことは馬鹿にされるって、なんかちゃうやろって思ってん。」


「和田くん、最低。サッカー部、最低。」


 手が震えた。私まで一緒に馬鹿にされている気になった。


「そんな部活やめて、正解だよ。サッカー部の連中に力を貸す必要はない。」


「ありがとう、そめやん。一緒に怒ってくれて。」


 にっこりと、まるで憑き物がとれたように微笑んだ。そのタイミングで、ガラガラッと部室の扉が大きな音を立てて開いた。そして意外な二人が部室に入ってきた。次期部長の楠くんと早乙女さんだ。なんか随分、親しげだな?……もしかして、楠くんも、早乙女さんの『騎士団』入っちゃった?


「あかねちゃんも写真部なんだ~!」


 視線を感じ取ったのか、早乙女さんから話しかけてきた。


「陽菜ちゃんどうしたの?写真部に用事?」


悠斗(ゆうと)が、ダンス踊っているときの陽菜の写真を文化祭で飾りたいっていうから、選びに来たの!」


「ああ、なるほど。」


 ん?早乙女さん、今さりげなく楠くんのこと下の名前で呼んだ?


「今日はちょっと時間がないから、あかねちゃんの写真は、文化祭の時、見させてもらうね。」


 二人は楽しそうにパソコンで写真を見ている。なんか距離が近いな。あの距離感が早乙女さんの魅力なのかもしれない。早乙女さんがあれもいい、これもいいと言っているのを楠くんはにこにこしながら聞いている。散々迷った挙句、ようやくお気に入りの一枚を選んで去っていった。

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