3. 北海道の夏
ジンギスカンでお腹を満たしてパパの家に戻る。今日の出来事をメッセージでママに伝えた。もちろん、りぼんちゃんとのツーショット写真も送った。
あ、そうだ。高倉くんにも自慢しちゃおう。私はスマホを手に取り、メッセージを打ち始めた。
『今札幌いるんだけど、ものまねの"ひめのりぼん"に会ったよ!』
添えた写真に驚いたのか、すぐ返信が来た。スタンプだ。"すごい!"って書いてあるやつ。
『えっへん、実はパパ、札幌支局のプロデューサーなのです!』
マシューが"エッヘン"と胸を張っているスタンプを送った。
『ホンマに!?』
『今度パパが"深夜2時の哲学"のサインもらってくれるって。』
『ええな~。うらやましすぎて、スマホぶん投げそうやわ!』
そのまま、今日のことを高倉くんに少し報告した。どうしてだろう?高倉くんにはなんでもないことも伝えたくなるし、やっぱり高倉くんと話すのは楽しい。同級生の紬と話すのも落ち着くし楽しいけれど、なんか違う。高倉くんとの会話はもっとわくわくする。いつも私に新しい世界を見せてくれるからかもしれない。
北海道2日目は朝から動物園に連れて行ってもらった。お目当てのシロクマは、連日の猛暑でぐったりしていた。
「シロクマくーん。東京から来ているんだから、もうちょっと、こうファンサービスしてもいいんじゃないかな~?」
私はカメラを向けながら、やる気がないシロクマにちょっと小言を言った。気づくとパパも暑さで倒れそう。
「パパまで!このくらいの暑さでやられていると、東京の夏に耐えられないよ。」
でもパパが熱中症になっても困るので、カフェで一休みすることになった。
SNSを見ると、高倉くんが自撮りをあげている。今日もカワイイ。調子が戻ったみたいで良かった。すかさずイイネを押した。
「普段、局内は冷房効いているからさあ。熱中症になって救急車で運ばれる人が出るのも納得だな。」
「明日は野球に連れてってくれるんでしょ!もっと暑さに強くなってよ。」
「そんなこと言っても、あかねみたいに若くないんだよ。」
パパの言い訳は聞かなかったことにして、いくつかお目当ての動物を回って、たくさん写真を撮った。パパも若干あきれ顔だ。
「カメラを買ってあげた時は、まさかこんなにハマるとは思わなかったな。」
「今年の誕生日プレゼントは、広角レンズがいい。もっとスケールの大きな写真が撮りたいの。」
「分かった分かった。」
そういえば高倉くんに出会って、写真を撮ることが『好き』だって気づけたんだっけ。あの時は、自分だけの『好き』を見つけられた気がして、ちょっとうれしかった。
北海道3日目は、野球観戦に行った。プロデューサーのパパは顔が広い。今日出場している選手の何人かとも食事をしたことがあるそうだ。
「ピッチャーの投げる球、ものすごく早いね。」
「ああ、あの選手は来年大リーグに挑戦するかもって言われているんだ。」
「ええ!海外行っちゃうのか、なんかもったいない。」
「パパはむしろ、優秀な選手にはぜひ世界にチャレンジしてもらいたいと思うよ。その方が日本の野球界にも刺激になるだろう?」
「ふーん、そういうものかな。」
そのあと、次々と点数が入ったので、パパは上機嫌で何杯もビールを飲んでいた。試合はそのまま応援していたチームが勝った。球場からの帰り道、パパがぽつりといった。
「さっきの大リーグ行くかもって言ってたピッチャー、実はゲイなんだよね。あ、これ内緒な。スポンサーとか色々ややこしいんだ。」
――ゲイ、LGBTQ+のGか。男の人を好きになる男の人。
「もちろんだからなんだって訳じゃないけど。結構いるしね、この業界。」
こういうことが話題になってしまうのは、その存在がまだ珍しいからかもしれない。パパに悪気はないと思うけど、誰かの『好き』がその人の知らないところで、勝手に値踏みされるような気がして、その人が『好き』ってだけで、他の部分まで変に評価されるのが、とてもイヤな感じがした。
その夜も、高倉くんにメッセージを送ってみた。
『今日は野球に行きました』
写真付きで送ってみる。すぐに返事が来た。
『え、めっちゃいい席やん。プロデューサーパワーすご!』
『いいでしょいいでしょ、パパはすごいのだ』
すかさずお気に入りの"マシューえっへん"スタンプを送る。
『そめやん、ええな~。こっちは暑すぎて干からびそうやわ。でも動画編集頑張ってるで。』
『明後日には東京戻るよ。新動画楽しみにしている!明日は小樽に行きます。高級寿司を食べる予定。』
『えらいグルメぶってるけど、味の違い、ほんまに分かるんかいな?』
離れていても、メッセージを返してもらうと高倉くんがすぐ近くにいる気がした。便利な時代だよね。
北海道滞在4日目、北の大地で過ごすのも残りわずか、今日は高級寿司だ!
「お寿司、お寿司!」
「相変わらず、食い意地が張っているな、あかねは。」
「パパと違って成長期だから、エネルギーが必要なの。」
小樽には張り切りすぎて、少し早く着いてしまった。寿司屋の予約の時間まで少し時間がある。時間まで運河の方に行ってみることにした。古い建物がたくさんだ。昔は貿易が盛んだったらしい。
――パシャパシャ
シャッターを切る。キラキラと光る水面、古風の倉庫、石畳、今この瞬間をカメラに収めていく。
ふと、液晶画面越しに外国人の男の人たちが手をつないで歩いていくのが見えた。あれがゲイって呼ばれる人たちなのかな?あまりにも堂々と歩いていくので、ちょっと驚いてしまった。――でも、まっすぐ前を向いて、手をつないで歩いていく二人の姿が、どこかまぶしくて、すごく素敵に見えた。そういえば、パパが言ってたっけ。海外だともっとオープンだって。ふと、女の子の格好をした高倉くんと自分が手をつないで並んで歩く姿を想像した。
「あかね、そろそろ時間。」
「わ、パパ待って。」
小樽のお寿司はどれもおいしかった。ホタテに、ボタン海老に、いくら、あと時知らずっていう名前のサーモン。春から夏に獲れる季節外れの鮭で脂がのっておいしいんだって。最後に二種類のウニを出されたけど、どちらもとってもおいしくて――味の違いはよく分からなかった。




