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高倉くんのカワイイを応援したい!  作者: 志熊みゅう
第一章 転校生の秘密
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2. となりの席の高倉くん

 それから、となりの席の高倉くんと、休み時間や給食の時間によく話すようになった。高倉くんがカワイイのは、鞄についたマシューのマスコットだけじゃない。ペンとか消しゴムとか小物がいちいちカワイイ。SNSの流行にも詳しくて、クラスの他の女子たちよりも、なんか気が合う気がして、ついつい話しすぎてしまう。


「バニーホップのポップアップカフェが今度原宿に出来るらしいで。マシューのパンケーキがスペシャルメニューやって。」


「わお!教えてくれてありがとう。絶対行く~!」


 私とはカワイイ話ばっかりしてるけど、実は高倉くん、勉強もできる。


「――ある文房具店で、同じ種類のノートと鉛筆をまとめて買いました。ノート2冊と鉛筆3本の時の合計は360円でした。ノート3冊と鉛筆2本の時の合計は400円でした。ノート1冊と鉛筆1本の値段を求めなさい。……分かる人はいますか?」


 数学の岡本(おかもと)先生が教科書の問題文を読み上げる。高倉くんが手を挙げた。


「じゃあ、高倉さん。」


 岡本先生にあてられて、颯爽と前に出て、黒板に数式を書いていく。


 ノート = x

 鉛筆 = y


 2x + 3y = 360

 3x + 2y = 400


 高倉くんは、スラスラと式を変形し、答えを導いた。数学が苦手な私は、xとyが出てきただけで頭がフリーズしてしまうのに。


「ノートが96円で、鉛筆が56円や。」


「正解。よく理解できているな。」


 高倉くんは、初めて習ったことなのにすぐにできてしまう。その姿がやけにかっこよく映った。席に戻ってきた高倉くんが、少しずり落ちた黒縁めがねをあげて、こちらを見た。


「どしたん?ぼーっとして。」


 他の誰にも聞こえないくらい小さな声で話しかけられて、思わず胸がドキドキした。


「初めて習ったのにすぐに解けちゃうの"かっこいいな"と思って。」


「話ちゃんと聞いとったら、簡単やろ。」


 数学が得意な人にとってはそうなのかな?それにしても高倉くんの声は、低音で声優さんみたいだ。


 そんな高倉くん、クラスの男子と話す時は、大体お笑いの話をしている。


「いやいや、それ東京のノリやん。関西なら絶対“スベったら即ツッコミ”やで」


 周りの男子たちがぽかんとしている。高倉くん、関西人らしく笑いには一家言あるらしい。関西とこっちじゃ、笑いのツボも結構違うんだな。


 放課後はクラスメイトの(つむぎ)と待ち合わせをして、塾に向かう。彼女は昨年度も同じクラスで、塾も同じだから、なんだかんだ付き合いが深い。


「ねえねえ、あかね!最近、転校生の高倉くんと仲いいよね。……もしかして好きなの?!」


「ち、ちがう。そういうのじゃなくて。高倉くん、大阪からの転校生でまだ学校に馴染みきれていないから、積極的に話しかけてあげているだけ!」


 茶化されたのが悔しいのに、顔が勝手に熱くなってくる。どうしよう、全然そんなつもりないのに。


 塾に着くと、早乙女さんと、となりのクラスの和田(わだ)くんが教室の前で話していた。紬が耳元でささやく。


「あの二人、付き合い始めたらしいわよ。美男美女でお似合いよね!」


「へえ、知らなかった。クラスの男の子たち、がっかりしそう。」


「ね!早乙女さんのこと好きだっていう男の子多いもんね。」


 早乙女さんは、色白でかわいい。多分、色素が薄くて、いわゆる『透明感がある』って言われるタイプだ。しかもうちの中学校は校則で染髪禁止なのに、地毛も少し茶色っぽい。なんだかうらやましいなあ。


 早乙女さんの彼氏の和田くんは、サッカー部のエースで、クラスはとなりのA組だ。誰が入っているのか知らないけど、校内にファンクラブがあると聞いたことがある。運動部らしくブレザーの制服を少し着崩している。普段から鍛えているせいか、それが妙に様になっている。


「私も、和田くんのこと好きだったから、ちょっと残念。でもあの早乙女さんなら納得だわ。私、次行くわ。」


 ――紬にとって『好き』という感情は、そんなに簡単に割り切れるものなのだろうか?もしかすると失恋してちょっと強がってるのかもしれない。


「次ねえ。この地球上に人類は80億人いるわけだから、単純計算するならあと40億人、男性がいるわね。」


「あかね、なにその計算!まあでもそう考えると世界は広いし、こんなの大した失恋じゃない気がしてきた。ありがとう!」


 そういえば、私も高倉くんを見てると顔が赤くなったり、胸がドキドキしたりする。


 これがもしかして『好き』ってやつなのか?――その日は、塾の授業中も『好き』っていうものが何なのか気になって、いつも以上に数式が頭に入ってこなかった。

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