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高倉くんのカワイイを応援したい!  作者: 志熊みゅう
第四章 夏休みは忙しい

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1. 林間学校

 夏休みが始まって数日――。高倉くんのお姉さんとは話したけど、直接高倉くんとは連絡を取ってない。SNSの方も更新がなくて、少し様子が気になった。


 そんな中、学校行事で林間学校に行くことになった。写真部としては、普段とは違うクラスメイトの表情を撮れる絶好の機会だ。バスの中で、わくわくしながらミラーレス一眼のSDカードを入れ替えていると、となりに座る紬の様子がいつもと違った。


「紬……なんか元気ないね。」


「私、文化部よ。山登りは得意じゃないの!」


「でもハイキングは2日目だけだし、キャンプファイヤーとか桃狩りとか楽しそうじゃん。」


「まあ、それはそうだけど……。」


 現地に着くと、まず明日のハイキングの順路を確認した。虫よけスプレーや日焼け止めは忘れないようにしないと。続いて、クラフト教室でバードコールを作った。バードコールとは、鳥の声に似た音を出す道具のことだ。木の枝に金属のネジを差し込み、それをくるくる回すと、小鳥のさえずりのような音が響く。上手に鳴らせば、本物の鳥が返事をしてくれることもあるという。木の枝の部分には、それぞれ思い思いの色を重ねて絵をかき、自分だけのバードコールに仕上げた。私のは、ピンクと白と水色でユニコーンっぽい柄にした。明日のハイキングで鳥たちが返事してくれるといいな。


 夕食は、野外炊飯だ。みんなで、カレーライスを作る。班分けが出席番号順だから、高倉くんと一緒のグループだった。そういえば、お姉さんからなんか話を聞いたのかな?


「そめやん、よろしくな。」


「うん!」


 今日の高倉くんの反応は至って『普通』だった。


 ちなみに何でもできる高倉くん、料理も得意かと思ったらそんなことはなかった。包丁でにんじんを切る手つきがどうも危なっかしい。指を切っちゃいそうでヒヤヒヤする。


「左手は猫の手にするといいよ。あと包丁の持ち方はこう。」


「ありがとうな。普段、料理とか全然せえへんから……。」


 にんじんの形が少し歪な気もしたけど、これも味だ。


 ご飯を炊きながら、カレー鍋に具材を詰め込んでいく。鍋にルーを入れると、カレーのスパイシーな香りが辺り一帯に広がった。


「うわあ、おいしそう!」


「結構うまくできとるやん。そめやん、すごい!」


 カレーライスを失敗する人はあんまりいないんじゃないかなと思ったけど、それは言わないことにした。


 外でみんなで作って、みんなで食べるカレーライスはなんだか特別な味がする。一人一人がとても生き生きとした表情をしている。この一瞬を逃すまいと、シャッターを切った。中でも湯気で黒縁めがね曇った、高倉くんの写真は秀逸だった。


「そめやん、それ消してーや。美意識に反する。」


「えー!せっかくきれいに撮れたのに。」


 夕飯のあとは、おなじみキャンプファイヤー。炎を見ているとなんだか落ち着いた気持ちになった。そんな時、となりから特大のため息が聞こえた。


「はあ~」


「紬、ため息をつくと幸せが逃げるよ。」


「明日、山登りしたくないなと思って。」


「ほとんど平坦なルートだし、あのくらい山に入らないでしょ。」


「虫も嫌いだし、日に焼けるのも嫌いだし、とにかくやなの。」


 紬の都会っ子らしい意見に呆れつつ、すこし励ましてみる。


「それが終われば、桃狩りが待ってるよ!ほら、頑張ろう!」


「うう~ん」


 やっぱり紬は嫌そうだった。


 2日目は朝からハイキング。それぞれグループに分かれて頂上を目指す。私は早乙女さんと同じ班だった。自然の中を歩くのは気持ちいい。バードコールを早速試してみる。


 ――キュッキュッ


 どこからともなく、『ピールリー』という小鳥の鳴き声が帰ってきた。やったー!上手くいった。


「すごい!これ本当にちゃんと小鳥さん返事してくれるんだ。陽菜も試してみようっと。」


 早乙女さんのバードコールはピンクを基調にうさぎの絵が描いてある。カワイイ。


 ――キュッキュッ


『ピッピリリ』今度はまた別の方向から返事が返ってきた。


「陽菜ちゃんのバードコール、カワイイね。」


「あかねちゃんのもカワイイよ。これは……ユニコーン?」


「正解!」


 早乙女さんは時々お菓子もくれて、とても楽しいハイキングだった。早乙女さん、思ってたよりいい子かも。そういえば、紬のやつ班員に迷惑かけずハイキングできているかな?


 頂上につくと、げっそりした顔の紬がおにぎりを頬張っていた。


「あかね~!もう死にそう。」


「お前の荷物、ほぼ全部大野が持っとったやんけ!」


 高倉くんがすかさず、紬にツッコミを入れる。大野くんは高倉くんのお笑い友達だ。


「でもでも~」


 ――パシャパシャ


 なんか、ふてくされている紬がツボにはまったのでこれも写真に納めた。


「ちょ、ちょっとやめてよ。あかね。」


「すごいいい表情だった!ありがとう、紬。」


「もう~!」


 ころころと表情が変わる紬はどの表情も魅力的なのにな。東京とは違う高原の涼しい風が頬を撫でた。


 ハイキングの後は、バーベキュー、そして肝試しだ。肝試しはくじ引きでペアを決める。私は誰と一緒になるかな?ドキドキしながらくじを引く。――私のペアは……大野くんだった!


「よろしく、大野くん。」


「よろしくな、染谷さん。」


 この肝試し、近所の神社でやるんだけど、要所要所、お化け役の先生が隠れているらしい。神社の境内に置いてある"お守りのお札"を取って来れたら終わり。神社って本来神聖な場所のはずなのに、夜中だとなんだかちょっと薄気味わるい。


「ひぉおおーー!」


 まずはゾンビの仮装をした体育の山田先生が飛び出してきた。顔にもマスクをつけて、ゾンビになりきっているのに、妙にすばしっこい動きと甲高い声で、すぐに誰だかすぐわかった。


 ゾンビから逃れてしばらく行くと、髪の長い女性が立っている。私たちが近づくと、振り向いた。


「わたし…きれい?」


 歴史の鈴木(すずき)先生だ。長い黒髪のウィッグを付けて、懐中電灯で顔を照らしながらマスクを外す。口紅を頬まで塗っている。多分これ、口裂け女つもりだ。鈴木先生を見たあと、大野くんがつぶやいた。


「なんか肝試しっていうより、コントみたいだな。」


「そうだね。今の思わず、笑いそうになった。」


 一生懸命驚かせようとしているのは分かるけど……正直ちっとも怖くない。油断していたその時だった。


「うわあ!」


 足元に血の付いた死体?みたいな人形が落ちていて、うっかり踏んでしまった。人形に気を取られていると、死角から、血まみれのホッケーマスクをつけたガタイのいい男が、ギィギィ……と血みどろの大きな斧を引きずりながら飛び出してきた。そしてそのまま斧を振り回しながら追いかけてくる。


「ひぃぃぃぃ!!」


「ぎゃあああ!!ジェイソンは13日の金曜日だろ。今日は13日でも金曜日でもないぞぉ!!!」


 大野くんが正論を叫んで先に逃げた。そのあと、私は神社の敷地内を散々追い掛け回され、なんとか神社に置いてあるお札を取って、大野くんを探して、もと来た道へ向かった。


「あ!大野くんやっと見つけた。お札取ってきたから戻ろう。――そういえば最後の誰だったんだろ?」


「いや絶対マッチーでしょ!あんなことするのマッチーしかいない。」


 ――マッチーこと化学の町田先生。我らが担任だ。理系の彼は変なところにこだわってしまう。


 大野くんは少し不満そうに唇を尖らした。お調子ものだけど案外ビビり。意外な一面を垣間見ることができた。私もジェイソン町田に追われて、ちょっと疲れてしまった。


 スタート地点に戻ると、先に戻っていた高倉くんにからかわれた。


「お前ら、ほんまうるさかったで。声響きまくってて、ご近所さんにめっちゃ迷惑や。」


「あれ、どう考えてもマッチーがいけないっしょ!!」


 大野くんは必死に弁明した。


 肝試しの後は、修学旅行恒例、枕投げに恋バナだ。就寝時刻を過ぎても女子部屋は騒がしかった。


「陽菜ちゃんと和田くんって最近はどうなの?美男美女のカップルでうらやましい。」


「うう~ん。颯真、結構身勝手だから、陽菜は困っているんだよね。」


 そう言って、早乙女さんが深いため息をついた。


「ええっ意外!」


 紬が素っ頓狂な声をあげた。


「意外かな?サッカー部も、颯真とそりが合わなくて辞めちゃう子、結構いるよ。」


 そういえば、高倉くんもだ。和田くんと何かもめたみたいでサッカー部すぐやめちゃった。


「ふーん。顔はかっこいいのにね。」


「陽菜は、恋人は顔じゃなくて性格の方が大事だと思うな。」


 美男美女カップルと持て囃される早乙女さんの意外な本音に少し驚いた。


 最終日の桃狩りでは、がっついて桃を頬張る紬を何枚も写真に納めた。甘い果汁があふれて、口の周りが桃まみれ。思わず笑ってしまった。桃の果汁まみれの紬の笑顔は、林間学校で一番好きな写真になった。こうして、私たちの2泊3日の林間学校は幕を閉じた。

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