初勝利?
「観念しろや!」
「あきらめろやおっさん、こんなとこ誰も来ねぇよ」
ガラの悪い男たちがおじさんを囲って叫んでいる。大しておっさんも、
「これは、大事なうちの商品なんだ、引き下がるわけにはいかん!」
と殺気立って馬車の前に立ちふさがっている。
おじさんの身なりそして言っていることを考えると、商人なんだろうと予測ができる。そして、盗賊たちは、食品か何かの馬車の中身の商品を狙っているといった感じだろうか。
ううむ…本来、俺が颯爽と登場して、かっこよく悪を懲らしめるように悪人を倒すべきなのだろうが、俺には、今、武器もないし、魔法とかの使い方どころか存在すらわからない。返り討ちにでもあったりしたら…と想像し、ぞっとした。
(ここは、戦略的撤退するしかないか、俺みたいなのがいても足手まといになるだけだし)
と俺は、仕方がないと決め、罪悪感を感じながらも、その場を立ち去ろうとした。俺は選ばれた勇者じゃないしな、うん…と開き直りながら…
すると、ガササ!
「うおっ!」
またスライムと運悪く鉢合わせてしまう。
先ほど同じように後ろに飛び上がった。
だが、今回は俺の声にビビったのか、スライムは逃げて行った。
しかし、、、
「誰だ!」
案の状、盗賊たちに見つかってしまった。
(最悪だ…)
俺は、心の中でそう吐き捨てながらも、隙を見せないようにしつつ、盗賊たちとにらみ合いになる。
「なんだお前、こいつらを助けにでも来たのか?なめられたもんだぜ、ヒーロー気取りかぁ?」
「帰った方が身のためだぜ?まぁ、この状況を見られたからには返さねえけどなぁ。」
と五人ぐらいの盗賊たちが攻撃態勢で近寄ってくる。
俺は、(んなわけねぇだろ、こんなとこに好きで来るか!最悪だぜ。)
逃げたいと思いながらも、このまま逃げてもこの人数振り切れるかわからない。しかも、
「おぉ、ありがたや、ありがたや。」
とまるで神でも見たかのようにおじさんが俺を見ながら拝んでくる。
俺は、(やめろよ逃げれなくなるだろ)と思い、おじさんに怪訝な顔を見せるも、通じない。
「おい、どこみてんだ?こないのか?じゃあこちらから行くぜ!」
と盗賊が俺にとびかかってきた。
俺は、おっさんに気を取られていたこともあり、いきなりの盗賊の攻撃に焦り、最低限の抵抗で腕で振り払うように盗賊にカウンターした。
すると、バッシィィィィィ、ピュゥゥゥゥゥゥゥゥゥン!ドッカァァァァァァン!
「・・・・ギャグマンガかよ....」
飛ばした張本人の俺がそう口にしてしまいポカーンとあきれるほどの勢いで、俺の振り払った腕に当たった盗賊が飛んでいった。
急にジャンルが変わったような、吹っ飛び方を盗賊はしていた。また、その盗賊は、何本かの木を叩き割った上に叩きつけられのびている。
それをみた盗賊たちは恐怖で青ざめ始め、ゆっくりと顔をこちらに向ける。なぜか、俺も盗賊と同じ反応をしながら殴った拳を震えながらみていた。だって俺も怖いもん。なんだこれ…
「な、なんなんだお前、何者なんだ!」
盗賊たちは、武器を俺につきつけながら震えている。
(むしろこっちが聞きたいわ、怖い、怖い、怖い)
今もまだ、人間を殴った生々しい感覚が手に残っており、俺は鳥肌をたてて震えていた。
だが、俺は震えながらも、
「こ、これが俺の力だ。ひ、引き下がった方がお前らのためだぜ?い、今なら許してやるよ。」
と盗賊たちにブラフをかけ脅す。心の中では
(どっか行け!、どっか行け!、どっかいけ!)
と祈り続けていた。
盗賊たちは、
「わ、分かった、すぐにこの場を離れる。だから、殺さないでくれ!」
と言った。
それに俺は安堵しつつも、
「あぁ、伸びたやつも連れてけよ?」
と平然を装い腕を組みながらカッコ付けて言った。以前として、足はガクガクブルブル震えているが…
そして、盗賊たちはすさまじいスピードで伸びた仲間を拾って逃げて行った。
俺は、逃げて行った盗賊の後姿を見送り、腰を抜かした。
「はぁぁぁぁぁ。。。。。ふざけんなよマジ。。。。」
俺は、大きな安堵と疲れのため息を吐きながら尻もちをついた。
「な、なんとか助かった。」
とりあえず助かったようだ、俺の力なのか、魔法でも発動したのか、よくわからないが。と落ち着きを取り戻していると、
「救世主様!」
とともに走ってくる音がする。盗賊に囲まれていた商人のおじさんだ。
「ありがとうございます!あなた様は、私の救世主です!」
と俺の腕をぶんぶん振ってくる。
いやお前もさっき戦えよと心で思いながらも、作った笑顔で、俺は、
「気にしないでください、困ったときはお互い様ですから。」
と早くこの場から立ち去りたい一心に謙虚に返答した。
「なんと謙虚な、そうだ、何かお礼させてください。」
と言い俺の腕を馬車の方に引っ張る。
俺は、早くこの場から離れたかったため、いえいえ大丈夫ですと何回も言うが、さあさあと俺の腕を引っ張り、馬車の方に引っ張って行く。
あまりにぐいぐい来るので、(こいつさっきから話聞かねーな)と愚痴を心の中でこぼすが、結局馬車の前まで連れてこられてしまった。
おじさんは、馬車の前のごそごそと荷物を漁りだした。
俺は、「ほんと大丈夫ですから。」とおじさんに言うが、荷物漁りに夢中で答えすらかえって来ない。
そして、おじさんはこれだこれだと荷物から何かを取り出した。指輪?だろうか、アクセサリーぽいものだった。
「あなた、お名前は?」
と俺に顔を急に押し付けてきた。俺は、その圧に押されとっさに
「ゆ、裕理、今井裕理て言います」
と答えるが、
「おぉ、ユーリ、イマイユーリ様というのですね。」
といいペンか何かで指輪に俺の名前をペンのようなもので書き始めた。
俺は、「な、なんなんですか」と言い生きる前に
「で、出来ました!」
と叫んだ、俺はとっさの大声に驚くと、おじさんは俺の手をぱっと掴み薬指に指輪を薬指にはめた。一瞬のことだった。
俺は、おっさんに指輪をはめられたことにぞっとし「なにすん」と言い気かけた瞬間。
「きゃああああ!」
と叫び声が聞こえる。
「な、なに!?」
と驚きとっさに身震いすると。どういうことだ、だが、今確かに馬車から女の声がした。
すると、
「おい、お前のご主人が決まったぞ、出てこい。」
とさっきまでのやさしそうなおじさんからは想像できないような口調で話した。
すると、馬車から金髪と茶髪の中間の髪の色でボロボロの布切れ一枚のなんというか高校生ぐらいの女が下りてきた。
俺は、おじさんの変容と謎の女の登場に驚き、ポカーンとなった。
「救世主様本当に助かりました。馬車には高級な道具や大事な物がたくさん入っていましたもので、商売の帰りで商品も少なかったですが、盗まれたら大変なことになっていました。そのため持ち合わせがなく、売れ残りですみませんがこいつも一応高級奴隷です。いろんな用途に使えると思います。その主従の指輪にこいつの主人登録をしておきましたので好きに使ってください。」
とおじさんが俺に言う。
俺は、なんで転生して早々、悪役みたいに奴隷のご主人にならなきゃならないんだとおもいつつ、急に他人の人権を急に渡されめちゃくちゃ怯えながら、青ざめた顔で焦りながら震えた声で、「い、いや、いらな。」と必死におじさんに言う。
だが、やっぱりおじさんは人の話を聞かず、そそくさ馬車に乗り、満足そうな顔で、
「今回は、本当にありがとうございました。あなたには、お礼しきれてもしきれないです。もし、私の店に来られるようでしたら、名前を覚えていくのでお声をかけてください。必ず、ちゃんとお礼をさせていただきます。では、急いでますので失礼します。ハイヨー!」
と言葉を残し、馬を叩き去っていった。俺は、声が出ないほど驚きながらも、必死に止めようとするが案の状、目もくれずに去って行ってしまった。淡々と俺に奴隷を渡して…
そして、そこで俺は脳がパンクし一時停止してしまった。
(え、なに?俺は、奴隷商人助けたの?転生早々?)
そしてようやく落ち着いたかと思えば、横にいるのは、虚ろの目をした女。
「どうすんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ」
俺は頭を抱えながら地面に向かって大声で叫んだのだった。
俺の夢の異世界転生の記念すべき最初の報酬は剣でもアイテムでもなく、主人公とは思えない、人(奴隷)だったのだった。
読んでいただき大変感謝です。