第8話 『レナとお泊まり!? 爆音夜のパンツクライシス』
19時13分。
俺の部屋のチャイムが鳴った。
ドアを開けた先にいたのは、黒のフードパーカーと迷彩柄トートバッグを抱え、無言で座り込んでいる少女――
「……よぉ」
「鬼咲……!?」
そう、彼女の名は鬼咲レナ。
地元で“爆音のレナ”と恐れられる元・暴走族の看板娘。
しかし今は、俺のパンツ保管ボックス登録No.3である。
「な、なんかあったのか?」
「ちょっと、うち……ゴタゴタしててさ。
オヤジとオフクロがガチ喧嘩して、家出てこいって……。泊めてくんね?」
「そ、そりゃまぁ……俺んち一人暮らしだし、部屋空いてるけど……」
「マジか。サンキュー。助かった」
こうして、“爆音の姫”が俺の部屋に一晩泊まることになった。
20時前、シャワー後。
事件は起きた。
「ねぇ白井……最悪」
「えっ、なんかした俺!?」
「着替えの袋に……パンツ入ってなかった。」
「!?!?!?!?!?!?!?」
「てかさ、あたしの“黒レース”どこ行った!? あの……お前の保管ボックスに入れてたやつ!!」
ダッシュでクローゼットを開く。
パンツ保管ボックスを確認――
黒レース、消えていた。
「ちょっとおおおおお!! なにがどうしてこうなったあああああ!!!」
「っつーわけで、白井」
「やだよ!!」
「買ってこい!! コンビニでパンツ!! 今から!!」
「だからやだってばああああああ!!!」
「い、いいからっ! ……S! Sサイズ!! ピンクでも白でもいいから!! あんまり透けてないやつ!!」
「サイズ言うなああああああああ!!!」
──その十数分後。
俺はコンビニの女性下着コーナーで、パンツを手に、フリーズしていた。
(待って。男子高校生が……深夜に……Sサイズのパンツ握りしめてるって……
これ、人生で一番逮捕されそうな瞬間なのでは!?)
「い、いらっしゃいませ~……あれ? あっ……白井くん……?」
「ぎゃあああああああああああああああ!!!!」
まさかの、ことり(バイト中)との遭遇である。
死んだ魚の目で部屋に戻ると、
レナがジャージ姿で胡坐をかきながら、床に座って待っていた。
「おせーな。おう……ありがと」
「……こんな青春、誰が望んだんだろうな……」
「……なんかさ。あんたんち、落ち着くわ」
「え?」
「爆音も喧嘩もなくてさ。洗濯機の音だけって、なんか……安心する。
あたしのパンツ、干されてるだけなのに、あったけぇ……って思えるの、変だよな」
レナが見せたのは、今までにないくらい柔らかな笑顔だった。
その夜。
二人は別の布団で寝ることに。
「一緒に寝ろって言ってんじゃねーよ!? べ、べつにいいけど!? いや、よくねーし!!」
「どっちだよ!!??」
明かりを消して、静かになった部屋。
レナがぼそりとつぶやく。
「……ありがとな、白井。
たぶん、今日一日で一番落ち着いた。……パンツの話してただけなのにな」
俺は心の中で叫ぶ。
(俺の人生、パンツで人を救ってる気がするんだが!?!?)
翌朝
目が覚めると、リビングのソファに座るレナが、昨日買った新品パンツを畳んでいた。
「なあ白井、パンツってさ。
“履くもの”でもあるけど、
“誰かに洗ってもらうことで守られてる”って感覚、ちょっと分かった気がする。」
彼女の目は、ちょっとだけ潤んでいた。
(俺……パンツ保管係、マジで意味あるかもしれない)